きこえるきこえる

 

マーガレット・ワイズ・ブラウン作

レナード・ワイズガード 絵

よしがみ きょうた 訳

小峰書店

 

マーガレット・ワイズ・ブラウンという名前をきくと、皆さんは何の絵本を思い浮かべるでしょう。私はまず「ぼくにげちゃうよ」です。そして「おやすみなさいのほん」「おやすみなさいおつきさま」「うさぎのおうち」などが印象深い絵本として浮かびます。

M・W・ブラウンさんは1952年に若くして亡くなったのでそれ程たくさんの絵本が手に取れるわけではありませんが、その1冊1冊が今でも子どもたちの心の中にあたたかさや喜びや愛の確信といった豊かな心情を育ててくれています。

この「きこえる きこえる」は、1936年にレナード・ワイズガードとのコンビで絵本になりました。日本では1998年に出版されています。赤・青・黄色それに黒という色を使い余白とのバランスのなかでモダンにデザインされた絵本です。80年以上前に作られているのに、全く古臭さを感じさせない、むしろ新鮮な美しさを醸し出していることに敬意をもちます。そしてブラウンさんの、子どもの心にやさしく語りかけることばとぴったり寄り添って読者を感性の世界に旅だたせます。

 

ストーリーは子犬のマフィンが目にごみが入ってしまい、お医者さんに包帯をまいてもらうというところから展開していきます。まっくらの世界、でもマフィンは音がきこえます。時計の音、電話の音、工事や車のクラクションの音、ハチや鳥の音、何でも聞こえて来ます。そしてキュキュキュと小さい音、「何だろう。」 マフィンはいろいろ想像します。ねずみ?ライオン?違う 違う。何だろう。それはかわいいお人形。マフィンはお人形をもらいました。というお話です。

 

今、私たちの周りは種々雑多な音が溢れ、そのひとつひとつに耳をそばだてて聞き取るということがありません。ものや事の「音」に鈍感になっています。呼びかけられても自分のことだとすぐに判断できないくらい雑音の中で心騒がしく生活しています。

子どもたちと音のあてっこをしたことがあります。楽器の音はすぐ分かりました。でもハサミでちょきちょきする音やアルミ箔を丸める音、紙を破る音、キャベツを包丁で切る音、などはすぐには分かりません。いろいろ想像したりもう一度確かめたりしてだんだん絞っていきます。何だか分からないものも、「これでした!」といって見せると「わぁ!」とその意外性にびっくりします。

私たちの周りには、目に見えるもの以外の、音や匂いや触覚の世界があってそれぞれ大切な感性を膨らませてくれます。子どもたちにはそんな見えないけれど確実にあるもの、自分の感性で感じ取ることの大切さを知ってほしいと思います。

 

マーガレット・W・ブラウンさんは子どもの心の奥にあるもの、子どもの声にならない声を描いている作家だと思いますが、この絵本もそんなこどもの繊細な感性の世界の大切さを伝えてくれているような気がします。

2020年05月13日