くれよんのくろくん


なかや みわ さく・え
童心社

 

☆くれよんの箱の中、新品のくれよんたちがひきおこす物語。赤、黄、茶、ピンク、青、緑などのくれよんたちはみんなで初めての絵を描きあげて大満足。でも黒だけは出番がありません。そのうちくれよんたちは描くのに夢中になって、せっかくの絵がむちゃくちゃに。その時、シャ-プペンのおにいさんにいわれるまま、くろくんはその上に頭をすべらして真っ黒にしてしまいました。でもその上をシャ-プペンが体をすべらせ、黒をけずっていくと、あっと言う間に大きな花火がいくつも夜空に浮かんだのです。

 

このくれよんのくろくんはシリーズで他に「くれよんとふしぎなともだち」「くろくんとなぞのおばけ」があります。どれも子どもたちが大好きなお話ですが、なかでも「くれよんのくろくん」は子どもたちに大人気で、いつも誰かどうかが小脇にかかえていたり、貸本の時にはどっちが借りていくかで争い事になったり、本を新しくしても消耗度が高くてすぐにフガフガになったりします。

またその人気の中で、同じように絵本を製作をしてみたり、劇ごっこに発展したクラスもありました。教師たちもその物語りのもつメッセージ性に共感して好んで読んでいるようです。

保育者がが深読みすれば、一人一人違った個性を生かしながら、子どもたちが互いに大切な存在として受け入れ合っていく物語りとして保育の示唆にも受け取れますし、さまざまな視点観点から保育に結び付けていくことができそうなストーリーです。

でも子どもにこれだけ人気があるということはそんな「みんなが仲良くなれたハッピーエンドのいいお話」ということだけではなさそうです。

クレヨンという子どもの身近な登場人物たちが、自分たちと同じ世界で仲良く力を出し合ったり喧嘩をしたり、仲間外れになって悲しかったり、解決がつかないような事態になって困ったり、それがびっくりするような解決になってみんなで喜んだりりというような、ごくごく身近な子どもの生活の中の出来事が等身大に描かれていることに親近感と安定感をもちその中でどんどん想像の世界がひろがっていくのではないかと私は思います。

特に、みんなの思いがぶつかり合って収集がつかなくなっている混沌状態を意表をつくやり方で、子どもたちの心をパァっと開放させ、新しい世界への誘いをしてくれる画面いっぱいに開いた花火の出現は圧巻です。どの子も目パチクリして顔が輝きます。

そんな子どもの世界を彷彿とさせるくれよんくんたちの物語、子どもは自分を投影して楽しんでいるのではないでしょうか。

 

4月、入園したての子どもたちが初めてクレヨンの箱をあけた時、そこに並んでいる新品のクレヨンたちの色の美しさに顔が輝きました。これからなんでも描けてしまいそうな、なんでもできそうな未知の世界が広がります。自分の大好きな色もあります。今日着ているシャツと同じ色もあります。これを紙の上で動かしたらどんな色になるんだろう、何が描けるんだろう。ワクワクしてきます。

子どもたちには形の作り方や色の塗りわけ方、などを教えるよりも、まず色の美しさを知って欲しいですね。この世にこんな美しい色が溢れていることを喜んでほしいです。

そしてみんなそれぞれの色にはその色のもつ個性があるということ、その個性が互いに生かし合って美や調整が生まれるということを感覚で知っていってほしいと思います。

新品のクレヨンを前にした子どもたちにまずはいろいろな色のもつ世界を楽しみ、自分の思いを自由に闊達に表現できるよう子どもたちにことばをかけていきたいと思います。

2020年05月26日