はちみついろのうま
小風さち さく
オリガ・ヤクトーヴィチ え
福音館書店
ある村に髪の美しい娘がいました。
娘は婚約した隣村の鍛冶屋に きのこスープ を作って届けようと林に出かけていきました。
きのこと、きいちごを捜しているうちに森の奥まで入り込んでしまいました。
かごがいっぱいになったので、帰ろうとして歩き出しましたが深い森が続くばかり。
そこにおばあさんが現れました。
娘が帰る道を教えて欲しいと言うと、おばあさんは鬼婆に変わり、娘の髪をひっぱって、ずるずるとひきずっていきました。そのうち、娘は馬の姿に変えられてしまいました。
馬小屋にとじこめられた娘は、どうにかしてここから出られないかと考えに考えました。
そして、「鍛冶屋に連れて行って ひずめに蹄鉄をつけて欲しい」と言いました。
次の日には「 たづな がなければおばあさんを乗せられない」と言います。
その次の日も「鞍とあぶみをつけて」といっては毎日鬼婆に森のきのこや木苺を持たせて鍛冶屋に自分を連れて行かせました。
娘がいなくなって 毎日捜しまわっていた 鍛冶屋はこのおばあさんと美しい馬にだんだん不審をもちはじめました。
そこで鍛冶屋は森の木に赤いひもを結びながら、おばあさんと馬のあとをつけていきました。
そしてとうとう森の奥に鬼婆の住処をみつけたのです。
鍛冶屋は急いで馬小屋の戸をあけ、馬(娘)を助け出し一目散に逃げ出しました。
ところが 鬼婆は すごい速さであとを追ってきます。
鍛冶屋は馬を仕事場に隠すと、大急ぎで納屋にわらを詰めるだけ詰めて、鬼婆を誘い込み、中に入ったとたん、戸をしっかりと閉めて火をつけました。
それから、鍛冶屋が馬をかくまっておいた仕事場の戸をあけると、中からあの髪の美しい娘が出てきたのです。
こうして鬼婆をやっつけた鍛冶屋と娘はめでたく結婚しました。とさ。
*この絵本は、昔話を聴いているような、なつかしさやドキドキ感で埋め尽くされています。
この物語は幸せの絶頂期にいる若い二人が、思いもよらぬ 摩訶不思議のこわい世界に突き落とされ、それでもなお知恵と勇気で再び幸せをとりもどすという明快なストーリーです。
しかし そのあらゆる場面に、読者がハラハラしたり 手に汗にぎったり というような小道具や要素がきちんと配置されていて、ものがたりの醍醐味を感じさせてくれます。
娘が林にきのこを採りにいくという冒頭の部分から「何かおきるのではないか。」という予感。
そして鬼婆につかまると「ああ やっぱり。これからどうなるんだろう」という緊張。
娘の知恵に一縷の希望をもちつつも、鍛冶屋が娘だと気がついてくれないと絶望したり、鍛冶屋が赤いひもを持って後をつける場面では息をころすような緊張感をもったりと。
そして、火をこわがるおにばばの断末魔には「よしよし、イッヒッヒ」と溜飲をおろし、美しい娘が小屋から姿をあらわした場面ではホッと胸をなでおろす。
二人の結婚式では心から拍手を惜しまずに祝福したくなる、読み終わるまでそんな 気持ちがあちこちに跳び動いて、ちょっと疲れてしまうようなおもしろいお話です。
そしてこの物語を 実に美しく夢物語のような印象にしているのが、オリガ・ヤクトーヴィチさんの絵ではないかと思います。
色使いといい、形といい、表情といい、実に美しい。一枚一枚が絵画のようです。
子どもだけでなく大人も 宝物にしたくなるような楽しい美しい絵本だと思います。