とんがとぴんがのプレゼント


西内ミナミ さく
スズキコージ え

福音館書店

 

遠くて寒い北の国。

はりねずみのとんがとぴんがという夫婦がニコラスおじいさんと一緒に暮らしていました。

今日はクリスマスイブ。

おじいさんは袋にいっぱいのプレゼントを詰め込むとトナカイのひくソリに乗って雪の山を滑り降りていきました。

とんがとぴんがにもプレゼントがそっと置かれていました。

二匹は考えました。

「ニコラスおじいさんは世界中の人にプレゼントをするのに自分には何もないんだね」

「来年は私たちがしましょう。」

「そうだ。くつした。丈夫であたたかい毛糸のくつしたがいい。」

二匹はおじいさんの靴下に穴があいているのを知っていたからです。

早速とんがとぴんがはソリに乗って出発です。

はじめにやってきたのは牧場のマオさんのところ。

二匹は一足分の靴下ができるだけの羊の毛とひきかえに、マオさんの牧場で働かせてもらうことにしました。

羊たちを毛を刈る小屋に押し込む仕事を毎日せっせとやって、春の終わる頃マオさんから羊の毛を一山もらいました。

つぎにやってきたのは毛糸紡ぎのツムさんのところ。

二匹は、あちこちに散らばっている羊の毛を集めて糸車のところまで運ぶ仕事を毎日せっせとして、夏も終わる頃、ツムさんに毛糸をつむいでもらいました。

つぎにやってきたのは染物やのソメさんのところ。

2匹は毎日染め粉のふたを開ける仕事をせっせとやって働きました。

そして、秋も終わる頃、ソメさんに毛糸を素敵な赤色に染めてもらってでかけました。

あとは編めばいいだけ、なのですが・・・・・。

クリスマスはもうすぐなのに、とんがとびんがには編めません。

2匹は困ってしまいました。歩いていくと発明家のエリックさんの家にたどりつきました。

エリックさんは、「最近発明した編物の機械でくつしたを編ませてもらえないか?」といいました。

機械は一晩中動いて、朝には立派な赤い靴下ができあがりました。

エリックさんもとんがもぴんがもおおよろこび。

とんがとぴんがははりきって赤い靴下と一緒に家をめざします。

今夜はクリスマスイブ。

プレゼントを配り終わって帰ってきたニコラスおじいさんは、とんがとぴんがを見てびっくり。

そして、赤い靴下を見て大喜び。

思わず「メリーサンキュー!」っていったんですって。

そしておじいさんからのプレゼントの特大クリスマスケーキをみんなで食べてクリスマスのお祝いをしました。って。


* なんて暖かくて楽しい絵本でしょう。

とんがとぴんがというはりねずみの夫婦は大好きなニコラスおじいさんにプレゼントをしたいという一心で長い旅にでます。

そして、牧場で羊を追ったり、体をボールのように丸くしてクルクル回りながら毛糸を集めたり、力をふりしぼって染め粉のびんのふたを開けたりしながら1年間せっせと働いて靴下が作れるだけの赤い毛糸を手に入れます。

でも、靴下に編んでもらえるところがなくしょんぼりしていると、思わぬところに救いの手が。

大喜びのとんがとぴんがの気持ちが画面を突き抜けてこちらに響いてきそうです。

そして、なつかしいニコラスおじいさんの笑顔を見た時の二匹の気持ちは靴下の赤色のように暖かく心満たされる思いだったことでしょう。

この二匹はりねずみの夢や希望が1年間という長い期間にわたって持ちつづけられ、その実現のために身をもって働くという日々の積み重ねがあったということに私はとても思いメッセージを感じます。

今、私たちは欲しいものがあればすぐに手に入れることができます。

また夢や希望があってもちょっと困難があればすぐにあきらめてしまいます。

現代に生きる私たちは自分の思いを実現させるための意欲や能動性があまりにも希薄だと思います。

ひとつの思いを成就させていくための努力、持続力、確信とかというものが合理性・効率性という名のもとに古臭いもの、ばかばかしい絵空事のように思う風潮があることを感じているのは私だけでしょうか。

しかし、人の心を満たしてくれるのは、切ってすてていく合理性ではなく、せっせとそのことのために夢と確信をもちながら一生懸命仕えようとする一途さなのではないかと思うのです。

ちょっと面倒な話になりましたが、この絵本、見るだけで暖かくなります。

作者の西内ミナミさんは、「ぐるんぱのようちえん」でデビューした方ですが、このお話のなかにもそのパターンやことばの使い方が生きていると思います。

この話は40年ほど前に「こどものとも153号」として発表されましたが、今回はスズキコージさんの絵で再改作されて10月に発行されました。

スズキコージさんの絵はとにかく豪華絢爛、紙面からはみださんばかりのゴージャスさ。

ことばがそのまま体で感じられるような立体感と色の美しさ、表情の豊かさは圧巻です。

そして、後半から描かれている毛糸から靴下になっていくその赤色は、この絵本の暖かさそのものであり、希望と、夢と確信の象徴でもあるように思うのです。

2020年10月29日