ダンデライオン
ドン・フリーマン さく
アーサー・ビナード やく
福音館書店
ダンデライオンが郵便受けをのぞきにいくと、手紙が一通届いていました。
おしゃれな便箋に金のインクで書かれたジェファニー・キリンさんからの招待状でした。
「土曜日にティパーティをいたします」と書かれています。
「土曜日って、今日じゃないか!」
ダンデライオンはあさごはんもそこそこに、床屋に走っていきました。
早速床屋のルー・カンガルーさんに、たてがみのカットをしてもらい鏡を見てみると、うーん、どうも期待していたものとは違うみたい。
ルーさんはあわててファッション雑誌を持ってきて、「こういうふうにウェーブをつけましょうか」とすすめました。
「・・・それがいいですね、きっと・・・」とダンデライオンはうなずきました。
そして、雑誌のモデルにまけないくらい立派な出来栄えの髪型が出来上がりました。
でもこうなると、着ているものも変えなくてはと、洋服やでチェックのジャケットを買い、帽子とステッキもそろえて大変身。
花やでジェニファーさんの好きなたんぽぽの花束を買って、ドアのベルをならすと、ジェニファーさんが出てきました。
ところが「どなたか存じませんが、住所をまちがえたんでしょう。」といってドアをバタンとしめてしまったのです。
「ぼくですよ。ダンデライオンです。」といってもドアは固くとじられたまま。
道をいったりきたりしているとそのうち空がくもって、風がふいてきました。
たんぽぽの花はくたくたに、新しい帽子も飛ばされてしまいました。
こんどはザァーとにわか雨が。
かっこいいヘアスタイルも、ジャケットもびしょびしょ。
少しすると雨がやんで太陽の光が降り注ぎました。
ダンデライオンはジェニファーさんの家の階段に腰掛けてたてがみが乾くまで待つことにしました。
すると、階段の下にたんぽぽの花が見えました。
ダンデライオンはそれを摘むと、思い切ってベルをならしました。
するとジェニファーさんが出てきて、「ダンデライオンさんはどうしたのかしらってみんなで話していたところなんですよ。」とよろこんで迎え入れました。
あたたかい紅茶を飲んでみんなで話に花をさかせているとジェニファーさんがいいました。
「そういえば、今日いやにおめかししたおっかしなライオンが間違えてうちのベルをならしたんですよ。」
ダンデライオンはおかしくなって「そのめかしこんだ、だてライオンはこのぼくだったのですよ。」といいました。
そのときのジェニファーさんの顔、想像できます?
あまりに恥ずかしくて、ネックレスに足がこんがらかってしまったんですって。
ダンデライオンはいいました。
「二度と だてライオンなんかにはなろうと思いません。ありのままのぼくがほんとうのぼくだからね。」
* とってもおしゃれな一冊です。
ライオンがたてがみにウェーブをつけたらと考えるだけでおかしくなってしまいます。
ダンデライオンとはたんぽぽの意味ですが、ダンディなライオンとのかけことばでこれもウィットにとんでいます。
この絵本はドン・フリーマンが1964年に発表し、たくさんの人に世代を超えて読まれてきた本です。
おはなしも、それに絵も、やさしくそしてしっかりとした安定感に満ちていて、たくさんの子どもたちに愛されてきたことが想像できます。
いえ、子どもたちだけでなくきっと大人もにんまりとしながら読んで、読み終わったあと何かやさしい幸せな気持ちになるのではないかと思うのです。
訳者のアーサー・ビナードもアメリカで子どもの時からこの絵本が大好きでよく読んでいたといっています。
この絵本をぜひ日本語に訳したいと思うということは余程の思い入れがあったに違いありませんし、読めばその思いが私たちにもよく分かるような気がします。
アーサー・ビナードは日本に来て日本語で詩作をしている人ですが、古典落語や俳句を研究するなど、日本人以上に日本語のおもしろさや意味深さに興味関心をもっている人です。
この絵本の訳もそんな彼のもつ日本語の世界がことばのはしはしにうかがえてお話をいきいきとおもしろいしゃれたものにしています。
ダンデライオンとはたんぽぽの意味ですが、彼は日本語の「た・ん・ぽ・ぽ」ということばの方がその花を言い当てて美しく響くといっています。
子どもだけでなく大人にも愉快でおもしろい絵本、それがこの「ダンデライオン」です。