どうするどうするあなのなか
きむら ゆういち 文
高畠 純 絵
福音館書店
森の中から3びきののねずみが「ひぇーたすけてぇ」と飛び出してきた。
そのあとを2匹のはらぺこやまねこが「くってやるー」と追いかけてくる。
のねずみも、やまねこも、この先に大きな穴があることなんかまったく知らない。
勢いあまって、のねずみもやまねこも、穴の中にまっさかさま。
穴は深くて壁はつるつる。外に出られそうにない。
穴の中でやまねこは、のねずみにおそいかかろうとしたが、そこはそれ のねずみたちも必死だ。
「僕たちを食べたって、あんたたちだってこの穴のなかで飢え死にだよ。」
そういわれてやまねこも考え込んだ。
ここはみんなで力を合わせたほうがよさそうだ。
そこで、みんなで考えた、穴の外に出る方法を。
一番小さいのねずみがいった。
「やまねこのだんなの肩におくさんが乗ってその上にぼくたちが乗る。そして外に出たら上から木のツルをたらせばみんな出られるよ。」
のねずみたちは大喜び。しかしやまねこは「ちょっと待てよ。それじゃあおまえたちは逃げちゃっておれたちはそのままにならないか」ということでその案は却下。
やまねこのおくさんがこういった。「あんたたち3びきの上に私たちが乗って外から長いツルをたらす、ってのは?」
「だめ!それじゃあ、外に出たとたん待ち伏せしていたあんたたちに1匹ずつ食べられちゃうもの」と、ねーちゃんねずみ。
あーじゃない、こーじゃないと話し合っていると、そこへ雨が降ってきた。
その雨のなか話し合いに熱中しているとそのうちザーっと水が穴の中に入ってきて話し合いどころではなくなった。
「こんなところでおぼれたくない。」とみんな必死でもがいた。
やっと雨があがったのか 水が引き始めた。
「ふー。助かった。もうだめかと思った。」
そこでまた、穴から出る方法をみんなで仲良く考え始めた。
水があふれたおかげでもう穴の外に出ていることをみんなはちっとも気がつかないで。
*今年6月に発行されたきむらゆういちさんの新刊書です。
天敵であるのねずみとやまねこが、一緒に深い穴の中に落ちてしまうという最大級のハプニングのなかで繰り広げられる生存をかけての駆け引きが、高畠純さんの描く絵とあいまってユーモラスに展開していきます。
そこでは弱く小さいのねずみたちも、ちゃんと自己主張し、命をもった一匹同士としてやまねこに応戦します。
やまねこも、どうにかしてこの危機から脱したいというなかで、のねずみと共闘を組まなければという呉越同舟の心境になります。
そうこうしているうちに、穴の中という危機は雨という偶然性のなかで解消するのですがそのことに気づきもしないほど、のねずみとやまねこは危機を双方の力で何とかしようと話し合うことがより大切なことになって熱中していくのです。
生きるか死ぬかという共通の危機をもってそれに立ち向かおうとした時、そこでは敵とか味方を超えて新しい関係性が生まれてくるのではないかと思わされます。
「生」を分かち合うものたちの本性とそれを超えたやさしさ、とでもいいましょうか。
きむらさんの絵本は他にもたくさんありますが「ゆらゆらばしのうえで」(福音館書店)「おおかみのともだち」(偕成社)などにも、このセオリーが見られてついつい読み返してしまいました。
「ゆらゆらばしのうえで」は、きつねとそのきつねに追いかけられたうさぎとが谷にかかる一本の橋の上で互いにうまくバランスをとらないと橋もろとも川に落ちてしまうという切羽詰まった状況のなかで橋の向こうとこちらにへばりついて一晩過ごすことになります。
いろいろな話をします。そしてうさぎが眠りそうになると「今寝たら死ぬぞ。もっと命を大切にしろ!」ときつねは声をかけて起こします。
そして、朝風に大きく揺れだした橋から力を合わせて岸に飛び移るのです。
「おおかみのともだち」は独りが好きなオオカミと、そのオオカミに「えものをとりにいこう」と親しそうに声をかけてきた大きなクマのお話です。
オオカミはクマが自分におそいかかってくるのではないかと戦々恐々として信用しませんがクマにおいしい蜂蜜をもらって一緒に食べたり、崖から落ちたところを助けられたりするうちにクマってどういうやつなんだろう、何が目的で自分に近寄ってくるんだろうとますますわからなくなってしまいます。
そして、川で力を合わせオオカミが追いそれをクマが捕まえたたくさんの魚を一緒に食べて話すうちにとてもうれしくなってくるのです。
どのお話もみんな大切なメッセージをもっていると思いませんか。
絵本だから伝えられるメッセージ。そして、子どもの心にいつまでもあたたかく残ってほしいメッセージ。
それにしても穴の外だということに気づいたのねずみとやまねこのその後のことがちょっと気になりませんか。
描いてはないのですが、私は多分いい具合に互いの尊厳をもちつつ分かれたような気がするのです。
だって、「ゆらゆらばし」のきつねは岸に這いあがって我に返るとぎらりと目を光らせ、ウサギを追いかけ始めましたが、途中で急に立ち止まるとゆっくりとおしっこをしながら「おーい うさぎ!もう つかまるんじゃないぞー」というのです。
そして「オオカミの」では、独りきりが好きなオオカミも、あのクマを思い出す時だけはクククと笑って、二人で食べた魚の味がなつかしくなるのだそうです。