ぼく、だんごむし


得田 之久 ぶん
たかはしきよし 絵 
福音館書店

 

庭の植木鉢の下にだんごむしたちが住んでいます。

だんごむしたちがえさを探しにでかけていくのは主に夜。

「しぜんのそうじや」ってよばれるくらい、たくさん、そして何でも食べます。

コンクリートや石だって食べます。これを食べないとうまく育たないのです。

そして、こわい生き物に出会うと、いち にの さん!てまるくなってしまいます。

かたい殻が体を守ってくれるので、ありのようなこわい生き物でもあきらめて行ってしまうのです。

だんごむしは何度も脱皮して少しずつ大きくなっていきますが、その脱皮の仕方は最初の日に後ろ半分、そして次の日に前の半分という不思議なやり方で、脱皮した抜け殻は必ず食べてしまいます。

大人になるとおかあさんはおなかのしたのうすい膜のなかに卵を産んで大切に育てます。

生まれたての赤ちゃんはしろっぽくてごまつぶみたいに小さいけれど、おかあさんにそっくり。

だんごむしは本当はかにやえびの仲間なので、少しの間だったら水におちても大丈夫。

あたたかい間は元気に過ごすだんごむしたちは、秋の終わりになると地面の下にもぐって春がくるまで仲間と一緒に眠ります。


*この絵本は2003年の7月に月刊科学絵本「かがくのとも」として発行され、2005年には「かがくのとも傑作集」として出版されたものです。

科学絵本といいますと、植物や生き物の生態や特徴を観察や知識として客観的に羅列していく図鑑などを思い浮かべますが、日本の科学絵本は科学の対象を擬人化したり、物語として表現したりしてやさしいアタッチメントをしながら子どもの興味や関心をひきつけていく手法がとても上手だと思います。

このだんごむしの本も「ぼく、だんごむし」の名前の通り、だんごむしくんが主人公です。

そして、だんごむしのぼくが、自分たちの生態や心情まで紹介していくという内容で、読み手にとてもソフトに、そして、だんごむしくんに寄り添うように自分を投入していくことができます。

この季節、幼稚園の庭のあちこちで子どもたちがだんごむし探しをしています。

そして小さな容器のなかにウジョウジョと捕まえて得意げに見せにくる子もいます。

手のひらに乗せるとくるくるっと丸まってしまい、そのままそっとしているともうだいじょうぶかなとでもいうように身を伸ばしてノソノソと歩き出す様をあきもせず見ている子もいます。

何よりも、石をちょっとどけると、そこに仲間と一緒にかくれている何匹かのだんごむしを見つけたときの喜びが子どもにとって魅力となっているのかもしれません。

そんな身近な、そして、こわくないだんごむしは子どもたちにとって夢中になれる生き物との遭遇の第一歩なのでしょう。

この絵本はそんな子どもたちにとって、だんごむしとの付き合い方を知り、そしてもっとだんごむしが好きになる絵本です。

色彩のきれいなクラフト風な絵もそれに一役かっています。

最後のページ、「それから、あきの おわりになったら、きみが ぼくを 見つけたところに そっと かえしてほしいんだ。ふゆは やっぱり、なかまたちと いっしょに すごしたいんだよ。」ということばでくくっています。

生き物に対するやさしいまなざしを育てる一文として心して読んであげたいと思います。

2020年11月10日