もぐらとじどうしゃ
エドアルド・ペチシカ 文
ズデネック・ミレル 絵
うちだ りさこ 訳
福音館書店
自動車がびゅんびゅん通る広い道路。
その真中の分離帯の土の中からもぐらが顔を出しました。
気持ちよさそうに走っているたくさんの自動車を見ているうちに、もぐらは「ぼくにもあんな自動車があったらなぁ。」と思いました。
そこで車の修理工場に行ってみると、自動車の部品がいっぱいならんでいます。
「自動車に一番大切なのはくるまだな。くるまさえあればぼくもすぐに自動車が作れるぞ。でも床もなければいけないな。ブリキもネジも。」ともぐらは町中かけまわって、いろいろな部品をさがしてきました。
そして、それをようやくくっつけてはみたものの、動かない、ぶるんともいわない、のです。
「どうして動かないんだ」と自動車にいっても知らん顔。
もぐらがしょんぼりしていると、その時、どこからか、ちっちゃいタイヤがころがってきました。それも4つも!です。
あれっ どこかですごい音がしますよ。
急いで行ってみると、まぁなんてことでしょう。
いたずらっ子のこわしやカルリクが今まで乗っていた自分の自動車をかなづちでガンガンたたいてこわしていたのです。
こわれた自動車、もう動かない自動車を置いてカルリクはどこかに行ってしまいました。この自動車、だれかなおしてくれないかなぁ。動くようにしてくれないかなぁ。
そう思っていると、しりたがりやのねずみが「あそこに行けばなおしてもらえるよ」とおしえてくれたので、もぐらはこわれた車をもって修理工場に行ってみました。
クレーンで吊り上げられて、きれいになおしてもらった自動車はぴかぴかに出来上がって出来てきました。
もぐらは大感激。
「さぁまず ねじをさしこんで自動車のぜんまいをまこう。ぼくの大事な自動車くん、ぼくと一緒にドライブにいこう。ぼくのおうちまで案内してやるよ」
たくさんの自動車が走っている道を、もぐらも一緒に走ります。たのしいな、うれしいな。
おうちに戻ってきたもぐらくん、大事な自動車のねじを抱いておやすみしました。
よかったね、もぐらくん。
*この「もぐらとじどうしゃ」は福音館から1969年に発行されてから50刷り近く発行を重ねています。
この主人公のもぐらくん、「もぐらとじどうしゃ」より2年前の1997年に「もぐらとずぼん」で日本に紹介されています。
この「もぐらとずぼん」もいまだに大人気の絵本で、2冊とも40年以上にわたってロングベストセラーとなっています。
ですから、子どものときにお父様やお母様から読んでもらったという方が,今ではご自分が親になってお子さんにこの絵本をよんであげているというケースがたくさんあるのではと思います。
もぐらという、ちょっと珍しい主人公の動物がいきいきと動き回り、何もないところから自分の欲しいものを試行錯誤しながら作り出していくというお話はわくわくするような探検や冒険の世界を展開していってくれます。
このなかでペチシカは子どもの視線ともぐらの視線を重ねているように、そこに見えてくる世界を子どもの感性により深く印象づけています。
また、この物語のなかのあちこちに自分のすぐそばにいる子どもの生活のなかでよく見られる場面や心情や実態が多々表現されていて、物語が実生活のなかにすぐ溶け込んでしまうような思いをしました。
いたずらっ子に「こわしやカルリクさん」とひそかに ニックネームをつけてほくそえんだこともあります。
作者は本当に子どものことをよく分かっている人、そして、子どもらしさを愛している人なのでしょう。
お話を書いたペチシカも絵を描いているミレルもチェコスロバキアの人ですが、題材のユニークさと、愛すべき主人公の子どもらしい心情の表現、画法の豊かさ確かさは、時を経ても色あせない新鮮さをもって読み手に喜びを与えてくれています。
うちだ りさこさんのすばらしい日本語訳も大きな役を担っていると思います。