14ひきのさむいふゆ


作 いわむらかずお

童心社


 

おとうさん おかあさん おじいさん おばあさん そしてきょうだい10ぴき。

ぼくらは みんなで14ひきかぞく。

風が吹き、雪が舞う寒い冬。

14ひきののねずみたちは、森の大きな木のなかに住んでいます。

外は吹雪、でも14ひきのおうちの中は何て暖かそうなんでしょう。

ストーブが燃えています。その上ではやかんがシュルシュルなっています。

ローソクの光のなかでおじいさんがこどもたちと竹を削って何か作っています。

おとうさんもこどもたちと何か紙に書いたり、切り抜いたりしていますよ。

台所ではおばあちゃんとおかあさんがおいしそうなおまんじゅうをふかしています。

一番小さいとっくんは、おまんじゅうをひとつもらってトラックに乗せてお家のあちこちを回ります。

おじいちゃんのところでは、そりかな?だんだん出来上がってきましたよ。

おとうさんのところは、何だろう。不思議なものができていますよ。

ああ、とんがりぼうしゲームね。おもしろそう。

さぁ、さぁ、おやつにしましょう。みんなでおまんじゅうのおやつを食べます。

おいしいな。おいしいね。

おやつのあとは、ゲームをみんなでしましょ。

おっ、雪がやんでおひさまが出てきました。

そりをもってみんなで外に出ます。まぶしい!つめたい!

すべる すべる、はやいぞ はやい。急ブレーキ、すってん。

ゆかい ゆかい そりすべり。 あぁ おもしろかった。

そして夜、おや また 雪。

おやすみなさい、雪だるま。


✽今月は、いわむら かずおさんの14ひきシリーズのなかの一冊を選びました。
何故かといいますと、今年はねずみ年だということを多少意識したのです。
更にねずみ年ということでおもしろいことを思い出しました。
いわむらさんの絵本のなかに「ひとりぼっちのさいしゅうれっしゃ」という一冊があります。
ひとりぼっちで最終列車に乗っていると駅に止まるたびに動物たちが乗り込んできて、主人公のまわりで動物たちの話が始まるという想定です。
そのなかで一番に乗り込んできた4ひきのねずみたちがこんな会話をするのです。
「来年はねずみ年だちゅうんだ。人間たちはおれらのことをいろいろ考えてくれるちゅうじゃねえけえ。だがきいたところじゃイギリスやアメリカちゅう国では、一週間にいっぺんはねずみの日があるんだど。」「それはチューズデエー(火曜日)ということじゃろうが」と。これにはおなかを抱えて笑ってしまいました。
ねずみという動物は、人の暮らしのすぐそばにいて、昔から人と知恵くらべをしながら生きてきたということもあるのか、たくさんの物語りや本のなかに取り入れられています。
体が小さく敏速で貪欲、そして子沢山というねずみは、愛嬌があってひょうきん者、それに家族を大切にする、というキャラクターとして定着しているようにも思えます。
この14ひきシリーズのなかのねずみたちも愛すべき主人公たちです。
今回選んだ「さむいふゆ」では、雪に閉じ込められた深い森のなかのねずみたちの小さな家のなかでは何がおきているかという視点で描かれています。
大きな森という外界と、ねずみたちの小さな家という対比のなかでミクロの世界を丁寧にクローズアップする手法により、そこに自己投入していく子どもの心がちょうど自分の寸法にあった物語りの世界の大きさに安心をおぼえながら、より新鮮な驚きや気づきを誘ってくれているように感じます。
この絵本はことばが少なく、しかし限りなくやさしく詩的です。そして、描かれている絵は隅々まで描き尽くされことば以上のことばとなってすべてを物語っています。またその絵をよく見ていると、世代の違うものたちのそれぞれの役割のあり方や、子どもの育ちの過程、またその育ちを支える大人たちのかかわり方やまなざしなどをみとることができます。
この14ひきのねずみたちの家は3世代の子沢山の家で、自然の恵みのなかで自給自足の楽しいまっとうな生活をしている家族です。
時間もたっぷりあって、家族がいつも同じことを一緒にやります。
働くことも遊ぶことも食べることも。
生活を楽しみ、そしてみんな仲良しです。
雪が降ったら、お家のなかでみんなで楽しく遊びます。おいしいものを作ってみんなで食べます。そして、雪がやんだらみんなで外に出てそり遊びをします。雪が降ってもやんでもそれを充分に楽しみます。
現代の人間の生活には願ってもできないような豊かな暮らしがそこにはあります。
私たちは、森に住んでいる14ひきのねずみたちのようには優雅に生活することはできないかもしれませんが、せめて家族が共に暮らしのために一緒に働き、おいしいものを一緒に食べて喜び、一緒に笑い、一緒に遊びに興じることができたらどんなにか楽しいだろうと、素朴なそして、満たされている14ひきのねずみたちの表情を見ながら、ふと思いました。

2020年11月16日