いちばんすてきなクリスマス


作 チェン チーユエン
訳 片山令子

コンセル

 

もうすぐクリスマスがやってきます。

ちいさいくまくんのおとうさんはその年、仕事をなくし新しい仕事をみつけられませんでした。

おかあさんぐまは、お金を数えて「今年の冬は節約をしなくっちゃならないわ。こどもたちにプレゼントをかえないわね」とおとうさんくまにいいました。

おかあさんくまは、くまくんの小さくなった服でクリスマスの飾りを作りました。

くまくんのお兄さんとお姉さんはサンタクロースが見てくれるようにとそれを窓に飾りました。

おとうさんくまは木の枝を探してきて,飾りをつけ、上から小麦粉をふりまいて素敵なクリスマスツリーを作りました。

クリスマスイブの日、おかあさんくまはおとうさんくまが釣ってきたお魚のおいしいスープを作りました。

夕ご飯の後、みんなは二階に行って「おやすみなさい」の他、何も言わずに休みました。

でもちいさいくまくんはなかなか眠れません。おとうさんを呼んでクリスマスのお話をしてもらいました。

そして、「サンタクロースは毎年プレゼントをくれるね。こんども忘れないよね」とおとうさんくまにいいました。

クリスマスの朝、、ツリーの下に、おひさまの光のなかによりそうように置かれている違った大きさのプレゼントがありました。

一番早起きをしたちいさいくまくんは大きな声で家族を起こしました。

みんなはそれぞれに自分の名前の書いてあるプレゼントをみつけました。

おにいさんぐまは「サンタクロースがきたんだよ」と叫びました。

それぞれプレゼントをあけてみると、おにいさんぐまには,前に木に引っ掛けて大きな穴をあけて使えなくなったたこがきれいに穴がふさがれて入っていました。

おねえさんぐまには、公園のブランコの近くでなくしたお気に入りの傘でした。

「サンタさんはかさが戻ってこないかなぁ,ってわたしが思ってたのをちゃーんと知ってたのね」とすごく喜んでいいました。

おかあさんぐまのプレゼントは、大好きな服のなくしてしまったボタンでした。

おかあさんくまはそれを手のひらをくぼませて宝石のようにのせました。

おとうさんくまには,木の枝を集めていた時、風に飛ばされてなくしてしまった帽子でした。

「どうやってサンタは帽子をみつけたんだろう」と不思議そうにいいました。

ちいさいくまくんのプレゼントは,大好きなグローブでした。「買ったばかりみたいにぴかぴかに光っている」といいました。

すると、おねえさんくまが不思議なものを見つけました。

それはツリーの下の雪についていた小さな足跡でした。

「サンタクロースの足跡だ。でもどうしてこんなに小さいんだろう。」

クリスマスの日は不思議な贈り物のこと、サンタクロースのことをずうっとお話して過ごしました。

使い古されたものたちは,新しいプレゼントになって楽しい思い出をたくさんよみがえらせてくれたのです。

こうして、くまの一家は今までで一番素敵なクリスマスを過ごしたのでした。

 


*くまの一家が過ごしたある年のクリスマスのお話です。

おとうさんくまは仕事が見つからない、一家の経済はひっ迫していてその日その日を生きるのに精一杯、という精神的にも生活も最大のピンチという状況のなか、クリスマスが近づいてきました。

そんな困窮のなかにあっても、おとうさんくまとおかあさんくまは、心と知恵を尽くしてツリーを飾り、窓飾りを作ってクリスマスを迎える準備をします。

子どもたちにプレゼントもあげられないだろう、ご馳走も食べさせられないだろうという心が潰されてしまうような切ない思いをもちながら、それでも子どもたちにクリスマスを待つ希望と喜びをもたせたいという親としての真摯な子どもへの愛情がひしひしと感じさせられます。

そして、クリスマスイブには2人の心づくしのお料理を食べてみんなでお祝いします。

クリスマスの朝、明るい日差しのなかでくまの一家が見たものはそれぞれに宛てられたプレゼントでした。それも不思議なプレゼント。

いつもそばにいて一緒に生活しているようなサンタさんのプレゼントだったのです。

それぞれが今はなくしてしまった一番大切にしていたものをちゃんとわかっていたのですから。

一体だれがこんなに素敵なサンタさんになったのでしょう。

それは、絵本をよく見ていくとちゃんとわかるのです。絵解きのように伏線がはりめぐらされ語ってくれています。

不思議なサンタクロースが誰だったのかを知った時、おとうさんくまもおかあさんくまもどんなに心を揺さぶられ喜びに震えたことでしょう。

都会に住み失業や貧困といった現代社会の歪みのなかにいるようなくまの一家はその不安や暗さ焦りのなかから、クリスマスを迎え、サンタクロースの心を受け取った時、再び幸福と希望と癒しを得て明るさを取り戻していくことができたのではないかと思います。

それはおとうさんくまとおかあさんくまの表情の変化で手にとるように伝わってきます。

この本を読んでいて、改めて、家族とは何か、贈り物とは何か,一番大切なものとは何か、サンタクロースって何だろうかということを考えさせられました。

作者のメッセージが緻密で素敵な絵と共に語りかけてくる一冊です。

メリー・クリスマス。よいクリスマスを!

2020年11月17日