ちいさなうさこちゃん


ディック・ブルーナ ぶん/え
いしい ももこ やく
福音館書店

 

☆「うさこちゃん」が日本にきてから53年。2つの丸の下に×を描いただけのシンプルなうさぎのデザインは日本中の子どもたちが親しみ、ほとんどの子どもたちが知っています。そして「うさこちゃん」の素朴なお話は何冊ものシリーズとなり、乳幼児期の子どもにはなくなてはならない身近な存在となっています。

その「うさこちゃん」を世に送り出してくれていたディック・ブルーナーさんが、2017年2月16日に亡くなりました。

ブルーナーさんは、オランダのユトレヒトにアトリエを持ち生涯をオランダで送りました。私たちにオランダの感覚を伝えてくれたのもこの「うさこちゃん」です。

色彩感覚、直線のシンプルな造形、やさしさのこもったお話など独特の感性があふれた作品の数々はオランダを愛したブルーナーさんならではのものだと思います。

どんな場面も丁寧に手をかけ心をこめて描かれています。目に見えるもの、言葉で聞こえるものの奥に、子どもはブルーナーさんのまなざしや、慈愛を感じ取ることができます。

 

このオランダで生まれた「うさこちゃん」、初めて渡った外国が日本でした。

1963年、海外の絵本を視察するために訪れたアムステルダムの小さな図書館でまだ絵本作家としては無名だったブルーナーの絵本に出会い、一目見て、「これは小さな子どもが気に入る絵本だ」と直感したのは福音館書店の 松居 直さんでした。

松居さんは即刻日本での出版にとりかかり、日本の子どもたちに提供する準備をしました。子どもたちの手にすっぽり入る当時珍しかった小さい版もそのままにしました。

そして日本語への翻訳を、石井桃子さんに依頼しました。

石井さんはオランダ語は初めてでしたが、オランダ大使館夫人に母国語で何回も読んでもらい、その言葉の響きと感覚を受け留めて日本語の文章にしたということです。

ここでオランダ名の「ネインチェ」は日本名「うさこちゃん」になりました。

「うさこちゃん」の誕生です。

このことについては松居 直著「わたしの絵本論」「絵本の時代に-5 ディックブルーナー論」に詳しく書かれています。

「うさこちゃん」は今は「ミッフィー」という名前の方が知られているようですが、これは英語訳の名前です。

「うさこちゃん」は世界で50カ国で翻訳されていますがその一番最初の翻訳が日本語であったということは興味深いことです。

このブルーナーさんの「うさこちゃん」の小さい絵本が、たくさんの子どもたちの心のよりどころとなり、その育ちにとってたくさんの大きな贈り物を届けてくれたことを改めて感謝します。

ブルーナーさんはこれからも「うさこちゃん」を通して子どもたちの中に生き続けていてくださると思います。

同時に、この絵本を日本に持ち帰ってくださった松居 直さんの、編集者としての鋭い直感と「日本の子どもたちに本物の絵本を」という信念と努力に心から敬意を表します。

2020年05月28日