よじはんよじはん


ユン ソクチュン 文
イ ヨンギョン 絵
かみや にじ 訳


福音館書店

 

ちいさな女の子、隣の店やに行って「今何時?母さんが聞いてこいって」っていいました。
店やのおじさん「よじはんだ」と教えてくれました。 
「よじはん よじはん」
あっ、にわとりが水を飲んでる。ちょっと見ていこう。
「よじはん よじはん」
あ、ありが何か運んでる。ついて行ってみよう。
「よじはん よじはん」
あ、トンボとんぼ どこ行くの?
「よじはん よじはん」
ん、オシロイバナの蜜甘いかな。
ちいさな女の子、日がとっぷり暮れた頃家に帰りました。
「おかあさん 今 よじはんだって」
ン?


この絵本は今年5月に出版された新刊書です。
でもお話は、まだふつうの家には時計というものがなかった頃の韓国朝鮮の田舎の村が舞台です。

「この本の朝鮮語の原詩は1940年に詩人ユン ソクチュンによって書かれたもので、その頃民族の独立を阻まれ民族の言葉を書いたり話たりすることを極端に制限されていた時代にあって、韓国朝鮮の民族の心を懸命に守ろうと、こどもたちの心の中に朝鮮語のぬくもりをひそかに伝えたのです。
時代に翻弄されてきた大人たちは、ただひたすらに次の世代をになう子どもたちのすこやかな成長を祈りました。そして、心をこめて童詩を語り継ぎ,未来を信じたのでした。」(あとがきより抜粋)

このユン ソクチュンの童詩に、1960年代を念頭に絵をつけたのがイ ヨンギョンです。
子どもを見つめる慈愛に満ちた大人の目がこの絵本には満ちています。
読んでいて気持ちがとってもやさしくなってくるのです。
そして、読み終わった時、ウフッと小さな声を出して笑いたくなるのです。
明るくほのぼのとした詩と絵によって、ユ-モアに満ちたシンプルなストーリーがより素朴さ純粋さを増して伝わってきます。
暗い時代にあってなお民族に対する誇りと未来への確信を子どもに託し、夢と希望を失わずに移り行く時代の末を見つめていた詩人の素朴さ純粋さが生んだ祈りのことばを聴いたような気がしてきます。

2020年11月25日