がたごと ばん たん


パット・ハッチンス 作 絵
いつじ あけみ 訳


福音館書店

 

ぼくが、おじいちゃんの手押し車のって がたごと ばんたん と畑をいくとそのあとを小さなあかいめんどりがついてきした。
ぼくは「みてみて めんどりさん。ぼくはこんなこともできるんだよ。」といいながら、じゃがいもとにんじんとたまねぎを掘り、それから豆の畑にがたごとはんたんと進んで、高いところの豆だって採りました。
がたごとばんたん、めんどりはずっとずっとついてきます。
ぼくは「みてみて、めんどりさん。こんなこともできるんだよ」といって、今度はトマトをとりレタスをとりそして大きなキュウリもとりました。
また がたごとばんたん進んでいくと苺畑。めんどりがついてきます。
ぼくは「みてみて」といいながらいちごを摘んでかごにいれました。
また がたごとばんたん進んで行くと、あれっ
ちいさなめんどりはついて……・きません。
こんどはぼくたちがめんどりについていきます。
がたごとばんたん 鳥小屋までついていくと……。
おじいちゃんがいいました。
「ほら、見てごらん。小さなあかいめんどりさんもこんなことができるんだ。
卵をひとつ、とびっきりの卵をぼうやにうんでくれたんだよ。」


この本はパット・ハッチンスの最新作でこの4月に発行されました。
色彩も美しく、畑の作物も見事においしそうに描かれ、花や木や果物、ハーブなどもやさしく描かれていてまるで畑の図鑑のような感じもいたします。
読んでいるだけで「ぼく」を通して、自然の植物や栽培物を育てる楽しさや収穫する喜びが伝わってくるようです。     
そして、「おじいちゃん」と「ぼく」がどんなに畑を大切にしているか、どんなに豊かなあたたかい食卓を囲む生活をしているかが感じられます。
「ぼく」がめんどりに「みてみて、ぼくこんなこともできるんだよ」といいながら収穫をする場面にも「ぼくこんなに大きいんだよ」ということと共に、収穫の仕事をすることへの誇りも感じられるのです。
その丹精に手入れをされた畑のなかを「ぼく」がおじいちゃんの押す手押し車に乗せられて、がたごとばんたんと進みながら、そのあとをついてくるめんどりとのやりとりを楽しんでいるストーリーはとても穏やかで牧歌的です。
ページごとに展開していく話や絵と、「がたごとばんたん進んでいきます。」「めんどりはついてきます。」という繰り返しの部分が子どもに冒険と安定の両方を与えていて、そこでもその妙技に感心してしまいます。
最後は、話の進行方向がぐるっと逆転して今度は「おじいちゃん」と「ぼく」がめんどりの後をついていくという展開になるのですが、めんどりは「自分にもこんなことができるよ」と誇らしげに卵を1つ「ぼく」に見せてくれるのです。
とてもシンプルなストーリーにもかかわらず、子どもをぐんぐん引きつけていって最後にさわやかな驚きとあたたかさを用意している絵本です。
おじいちゃんの関わりも見逃せません。
「ぼく」への愛情、植物や生き物に対する愛情が、最後に「ぼく」に語りかけることば「ほら みてごらん」「ちいさなあかいめんどりさんもこんなことができるんだ。たまごをひとつとびっきりのたまごをぼうやにうんでくれたんだよ」にすべてが集約されているように思います。

この絵本を読みながら、去年発行されたハッチンスの「かえりみちをわすれないで」をふと思い出しました。
これも彼女の幼児期の田舎暮らしの体験を彷彿とさせるお話で、直線に進んで行って戻ってくるというじつにシンプルな動きのストーリーが独特の画風で描かれた印象的な絵本でした。
1975年にも、めんどりのロージーときつねとのユーモラスな絡み合いの絵本「ロージーのおさんぽ」を描いていますが、この絵本は彼女のベースになっているような気がします。
他に、小さい男の子とその兄弟、家族とのお話を描いた「ティッチ」が石井桃子さんの訳で同じ1975年に出版発行され、その時もその個性的な作風が心に残りました。
1984年にはその続編「ぶかぶかティッチ」を発表しています。
個性の光る作家と作品です。

2020年11月26日