たろうのひっこし


村山 桂子 さく

堀内 誠一 え

 

福音館書店

 

ある日、たろうが「ぼく、自分の部屋が欲しいな」というとおかあさんが「いいわ。たろうのお部屋を作ってあげる」といってくるくるまいた古い絨毯をくれました。
「このじゅうたんを広げたところがたろうのお部屋よ」と。
たろうは早速じゅうたんを階段の下に広げました。
「わぁ、ぼくのおへやができた。でもだれかお客さんがこないかなぁ。」
するとねこのみーやがやってきました。
「わぁ すてきなお部屋。でも窓があったらもっといいのに。」
そこで絨毯をくるくる巻いて抱えると、出窓の下にお引越し。
絨毯を広げてお部屋になれました。みーやは大喜び。
犬のちろーがそれを見て、「いいな。でもぼくはおうちの中に入れないからつまらない」といいました。
そこでたろうは絨毯をくるくる巻いて抱えると、外の犬小屋の前にお引越し。
ちろーは大喜びでお部屋にあがりました。
そこにあひるのがぁこがやってきて「たろうちゃんのお部屋におひさまが当るともっといいのに。」といいました。
そこでまた、たろうはみんなを連れてお引越し。
庭の真ん中に絨毯を広げました。 
するとそこににわとりのこっこがやってきて、「2階だったらもっといいのに。」といいました。
そこで、またまた たろうはお引越し。
今度はニワトリ小屋の上に絨毯を広げました。
こっこは大喜びで2階のお部屋にあがりました。
そこに今度はまみちゃんがやってきました。
「わぁ すてき。でもたろうちゃんのお部屋がみんなで遊べるお部屋だったらもっといいのにな。」といいました。
みーやも ちろーも がぁこも こっこも「みんなで遊べる部屋がいい!」といいました。
そこでたろうは「そんなことなら簡単さ。」といってくるくる絨毯を巻くと「おいでよ。みんな引越しだよ。」といって、桜の木の下に行くと、そこに絨毯を広げました。ここならみんなで遊べるお部屋です。何てすてき!。
すると、「みんな一緒におやつにしましょ。」とまみちゃんは包みを広げました。
おかあさんがジュースを持って来てくれて、みんなは桜の花の下で大喜びでおやつを食べましたって。



この「たろうのひっこし」は、こどものとも325号として1983年4月に配本になりました。
今から24年前です。
この本が出た時に読んだ子どもたちはきっと新鮮でモダンなものがたりと絵に触れて印象深く心に残っていると思います。
桜の花の散る庭でみんなが春の陽だまりのようにあたたかく幸せそうな笑顔でおやつを楽しんでいるという最後のページに象徴されるように、このものがたりはあたたかさに包まれています。
登場人物もみんな個性的で自己主張をしますが、たろうはそれをひとつひとつ受け留めながら楽しく遊びを創っていくのです。
また、おかあさんが実に夢があります。
絨毯を広げたところがお部屋になるなんていう発想は 若草のように柔軟で、よほど子どもの心を大切に持ち続けている人でないと出てこないでしょう。
そのおかあさんのやわらかくて楽しい関わりのなかでたろうの世界はぐんぐん広がり、遊びも他の人との関わりも楽しく展開できるようになっていくのだと思います。
今、子どもたちはゴザひとつ、絨毯ひとつで果てしのない夢の世界を創りだしていくという遊びは苦手になっているように思います。
この本が描かれた24年前の子どもたちはどうだったんだろうか、どんな遊びをしていたんだろうかと改めて考えてしまいました。
このたろうのシリーズは、村山桂子さんと堀内誠一さんのコンビで こどものとも51号(1960年6月号)「たろうのばけつ」から始まっています。
今から47年前です。
そして、「たろうのともだち」1961年こどものとも1月号。
「たろうのおでかけ」1962年4月号。
改訂版「たろうのともだち」1967年4月号、と月刊こどものともで出版されています。
「たろう」や「まみちゃん」、「ねこのみーや」、「いぬのちろー」、「あひるのがあこ」に「にわとりのこっこ」もすっかり身近に、まるで自分の幼児期に共にいたともだちのように感じている人もおられると思います。
ずっとこのシリーズが続いていたら 今、どんなものがたりになって登場していることでしょう。
でも堀内 誠一さんはこの「ひっこし」のあと4年後に亡くなっていますのでもう二度と「たろう」の新刊書はないと思うとさびしくなります。

 

2020年11月30日