ニューワと九とうの水牛


小野 かおる 文・絵

 

福音館書店

 

昔むかしのおはなしです。
ふかい山に囲まれた小さな村に、やせこけてぼろぼろの服をまとった小さな男の子が迷い込みました。
村の人たちはその子にニューワと名前をつけてみんなで育てることにしました。
ニューワは村人が飼っている9頭の水牛の世話を一生懸命しました。
ある年、ひでりが続いて村人も水牛も食べるものがなくなりそうになりました。
ニューワは1人で水牛に食べさせる草を探しにでかけました。
ふかい淵に出たニューワは、その中州に青草や葦がはえているのを見つけて急いで水牛たちを連れてきました。
しかし、淵は深く、水牛を中州までどうやって渡したらいいか困ってしまいました。
ニューワは「水の神様、りゅうおうさま。水牛に淵を渡る力をください。お礼に何でもします。」と一心に祈りました。
すると突然淵の底から水牛が一頭乗れるくらいの大きな石がぶっくりと浮き上がってきて、水牛を次々に中州に運ぶことができました。
そこで水牛たちはおいしい草をおなかいっぱいたべることができました。
帰る時には教えられたように葦の笛を吹いて石を呼び出し淵を渡ることができたのです。
ニューワが大人になったある年、以前よりもっとひどいひでりになりました。
ニューワはまた、淵の底に向かって「何でもしますから雨を降らせて」とりゅうおうに頼むのでした。
すると大雨が降り出し、水のなかからサイのようなけものが現れてニューワに「背中に乗りなさい」といって走り出したのです。
ニューワが目をさますと、そこは立派な御殿でした。
そして、たくさんの家来に囲まれた美しい姫がニューワに婿になるようにと言ったのです。
ニューワは驚いて、「水牛たちのところに帰してほしい」と頼みましたが、家来たちは「助けてくれれば何でもするといったではないか」というのです。
しかし、ニューワの気持がわかった姫は、いつでも水牛たちに会えるようにとしてくれました。
ニューワが笛を吹くと、水牛たちがやってきて中州で一日中一緒に過ごすことができ、夜になるとその水牛たちは9つの大きな山に変わるのです。
こうしてニューワと姫は水牛と一緒に暮らしました。


2007年1月31日に出版された福音館の新刊書です。
けれども、このような昔話はどこか懐かしく、同じような香りをもって読者を魅了します。
どこのだれというはっきりとした規定のない、存在そのものがミステリアスな主人公が、「昔むかし」「小さな村」というこれまた空中浮遊をしているような時、場所で繰り広げられるお話。
聞く人,読む人の想像力を自由に広げてくれます。
そして、「りゅうぐう」の「姫」の登場で物語は一気に力を帯びて展開していきます。
子どもから大人までお話に吸い込まれていくような感じです。
絵も肉厚で色彩も美しくお話によく合っていて双方で引き立てあっているようです。
ところで「水牛」というのは、日本に住む私たちにはあまり家畜として身近ではない動物ですし、大きなそそり立つような9つの山というのもどこからきているのかと不思議に思って調べてみましたら、これは中国 桂林の伝説をもとにして作られたお話だということです。
桂林といいますと、急峻な岩山が立ち並んだ絶景で知られた所。
なるほどと胸に落ちました。

2020年12月02日