たんぽぽ


平山和子ぶん・え

北村四郎監修

 

福音館書店

 

この絵本は福音館書店の月刊「かがくのとも」1972年4月号として発行され、それが傑作集として装丁を新たにして出版された絵本です。
「たんぽぽ」は、私たちがたいていどこででも、また、いつでも目にすることができるごく身近な植物ですが、考えてみると何と不思議な植物だろうと思います。
まず、あの逞しさです。どんな劣悪な場所であっても、雪の下にうずまって凍るような寒さであっても大きな葉を広げて黄色い花を咲かせます。
今も、しおれたような葉が凍った地面の上に這いつくばるようにしていますが
やがて時季がくれば、新しい葉を出して立ち上がってきます。
そして、道端に生えて人に踏まれようがどうされようが再び起き上がる逞しさ。
何より、花が部屋の中に入れた途端に元気がなくなってすぐしぼんでしまうこと、花が「わたげ」になって一斉に飛んでいくこと、不思議なことばかり。
その不思議なメカニズムがこの科学絵本によってわかりやすく絵解きされ、そして、ますます自然のもつ不思議さに驚嘆したり興味を深めていきます。
圧巻は根っこの長さ、この驚きは何年たっても印象に残っています。
この絵本はものがたりでもありませんし、作者が特に創り上げたものではないのですが人の思いや手を超えた、自然のもつドラマチックな営みが淡々と真摯に描かれていて学ばされるものがたくさんあります。
これだけの画をこれだけ真理に忠実に描くために、作者はどれだけの時間と観察力を用いのだろうと思うといつまでも大切に読んでいきたい絵本だなと思います。
朝、子どもたちはたんぽぽの花が道端に咲いていれば、ふと足をとめてながめ、そして、そっと花を摘んでは幼稚園に持ってきてプレゼントのように渡してくれます。
すぐに小さな花瓶に入れておいてもお昼にはすっかりしぼんでしまうのですが
子どもたちは毎日毎日同じようにたんぽぽの花を大切そうに抱えてきます。
たんぽぽの逞しさ、かわいらしさは子どもに大事な何かを訴えてくるのかもしれません。

たんぽぽについてもっと知りたいと思う人は福音館の 「たんぽぽみつけた」(石津 博典さく)なども読んでみるとおもしろいと思います。

2020年12月03日