うらしまたろう


時田 史郎・再話

秋野 不矩・画

 

福音館書店

 

昔のお話です。
あるところに浦島太郎という若者が住んでいました。
海で魚を釣りながら、年老いた両親を養っておりましたが、ある日、海に出ていくら釣り糸を垂れても雑魚3匹しかとれない日がありました。
重い足取りで浜辺を歩いていると、何やら子どもたちの騒ぎ立てる声が聞こええてきます。
近寄ってみると、子どもたちがごしきのカメを囲んで木の枝で叩いたりしていじめています。
太郎がカメを放すようにいっても一向にききません。
太郎は今日の漁のすべて、雑魚3匹とカメをとりかえさせました。
次の日、最後の糸を垂らした時、重いてごたえがあり、力いっぱい糸を引くと、輝きとともに美しい娘がカメを従えてあわられました。
娘は「私は昨日あなたに助けられたカメ。実は竜王の娘おとひめです。」といい、お礼をしたいので一緒にきてほしいとカメの背に乗せ目を閉じさせました。
太郎が促されて目をあけた時、そこには竜宮が見えました。
早速歓迎の宴が始まりました。
そして、太郎はそこで毎日楽しく暮らすうちに3年の年月がたっていました。
ある時、太郎は家に残してきた両親のことを思い出し、引き止める竜王やおとひめに暇乞いをしてもといた里に帰ることにしました。
おとひめは別れる時に、美しい玉手箱を、「この箱を持っていれば又いつか会えるかもしれない。でも決してあけないで」といって渡しました。
太郎がカメに送ってもらってもといた里にもどってみると、家もなく人々も知らない人ばかり。
聞いてみると、浦島太郎という人は300年も前に海に出たまま帰らないという答えでした。
途方にくれた太郎が、おとひめが渡してくれた玉手箱のふたに手をかけると、
なかから、3筋の煙が立ちのぼり、太郎は白髪のおじいさんになってしまいました。


ご存知の方は空でお話ができるほどに馴染みのある昔話です。
でもこの頃、子どもたちだけでなく、お父様お母様に聞いても知らないという人が多くなりました。
むかし むかし うらしまは たすけたカメにつれられて
りゅうぐうじょうにきてみれば えにもかけないうつくしさ
という童謡も歌える人も少なくなりました。
御伽草子の時代から大人にも子どもにも親しまれ、口から口へ語られてきたこの昔話は人々に目に見えない御伽の世界を想像させ、現実の世界との往来を楽しませてきたことと思います。
浦島太郎伝説にはたくさんの意味や背景があり、ある意味ではこわい話でもありますが、お正月、子どもたちにゆったりとシンプルにストーリーを語って一緒に楽しんでみて欲しいと思います。
海の底の竜宮城に舞う魚達を想像するだけでも楽しいのではないでしようか。
子どもたちはこんな奇想天外なお話を喜んで聞くことでしょう

2020年12月04日