はるかぜ とぷう


小野 かおる さく/え
福音館書店

 

☆あまりの寒気に「もう限界」「いい加減にしてよ」といいたくなる日々。本だなを探ると、この「はるかぜ とぷう」の何ともいえない明るい色彩の表紙に心ひかれてついページをめくりました。何というやさしい絵本なのでしょう。

おとうさん、おかあさんと一緒に丘のホテルにやってきた春風の子「とぷう」が、街に出ていくと「やあ、春風だ」とみんなにこにこ。動物園の動物たちにも春風をふきかけるとみんな気持ちよさそうに居眠りを始めます。「とぷう」のいくところ、みんな気持ちよくごきげんになります。ところが先にきていた風の子たちとけんかが始まるとつむじ風がおきて大騒ぎ。「春風はやさしくしなければ」とおかあさんになだめられながら、「とぷう」はまた冬の風が残っている街へ移っていくのでした。

おだやかでやさしい話の展開です。

読んでいるうちに、私の中の春を待つ思いにぴったりと寄り添って、ゆったりと、おだやかに、そして春風が当たっているようないい気持ちになってきます。

これといったトピックスや衝撃的な出来事はありません。シンプルにひたすら春を待つ思いに寄り添います。

この冬の日、「とぷう」はいつ私たちの町にやってくるのでしょう。冷たい風が吹く日など、「とぷう」が冬の風とけんかをしているのかな、と思わず空を見上げます。

この絵本は1969年の3月「こどものとも」第156号として出版配本されました。

そして1998年にこどものともコレクションとして出版されロングセラーとなっています。創作から48年もたっているのに、少しも古びたり色あせたりしないで手元にあり続けています。

子どもの生活を急がせない、子どもの呼吸の速度にあったものがたりだと思います。

2020年05月29日