カマキリくん


タダ サトシ

こぐま社

 

虫が大好きなこんちゃんはいつもいろいろな虫と遊びたいと思っていました。

今日も虫捜しに出かけます。

オニヤンマにトノサマバッタ、みんな逃げられてしまいました。

でも、カマキリだけは逃げずに、こんちゃんに向かって挑みかかってきました。

それでもこんちゃんは、カマキリと遊んでみたいとそっと手を出すとかまきりはその手にのぼってきました。

こんちゃんは家に連れてかえることにしました。

そして、お家でカマキリといっぱいいっぱい遊びました。

でもそのうち、カマキリは元気がなくなってきました。

疲れちゃったのかな。

こんちゃんは、ぐったりしたカマキリを、バッタたちのいるケースに入れて休ませることにしました。

ところが、朝、こんちゃんがケースをのぞくと、元気いっぱいのカマキリの他はだれも見えません。

「うぁーん うぁーん。どうして?どうして仲間を食べちゃったの?

そんなの ひどいよー」

こんちゃんは初めて、カマキリが生きた虫を食べることを知ったのです。

そして、「ぼく、きみのえさにするために生きた虫をとってくるなんてできないよ」と草むらにカマキリを連れていって放してあげたのです。

「カマキリくん また あそぼうね」

カマキリくんはこんちゃんに手をふってくれました。


子どもが生き物と真正面で出会った出来事が描かれている絵本です。
小さい子どもたちといつも一緒に生活していると、さまざまな場面で、生き物との付き合い方をどのように伝えていったらいいのかを突きつけられます。
特に、生命に関わることについては、自分自身の生き方や考え方、感性というようなものがそのまま問われているような気がしてドキドキしてしまいます。
でも多くの時に、子どもも大人自身もストンと胸に落ちるような納得のいく伝え方や助言ができないままにあやふやになってしまうような気がしています。
この絵本はこんちゃんとカマキリの出会いを通して、子どもが生き物に対して抱いている特別の思いや、生き物と共に創っていく世界、また、その生態の現実をショックと共に受け止めてそれぞれの一番ふさわしい世界にもどっていくという過程がエピソードとして描かれています。
子どもが実際に体験した、未知なる世界の扉を開いた瞬間とでもいったらいいでしょうか。
こんちゃんにとって、自然の世界って何て不思議で、何てすごいんだろうという深い感動と、真理探究の基となった事件だっただろうと思います。
虫や昆虫、小動物、また、木や草花といった生き物との出会いが活発になるこの時期に、子どもとゆっくり生活を共にしながら、自然の恵みや自然の営みの素晴らしさ、そして生命の尊さを体と心で感じていきたいと思います。

2020年12月18日