パパとママのたからもの


サム・マグブラットニー ぶん

アニタ・ジェラーム え
小川仁央 訳

評論社

 

昔、三匹のこぐまがいました。
いちばんめのおにいちゃん。
にばんめのおねえちゃん。さんばんめのぼうや。
さんびきは同じ晩に生まれました。
三匹にはパパとママがいます。
ママは寝る時にいつも、「おやすみ、世界で一番かわいいこぐまたち」といってくれます。

でもある時、こぐまたちは不思議に思いました。
そこで「どうしてぼくたちが世界で一番かわいいってわかるの?」とママにききました。
するとママは「それはね、パパが、あなたたちが生まれた時に世界一かわいいこぐまたちだ、っていったからよ。」それをきいたこぐまたちはうっとりしてすっかり満足しました。

しばらくして、またこぐまたちはふと心配になりました。
パパにきいてみました。
「ぼくたちのなかで、パパはだれが一番好きなの?みんなが一番にはなれないもの」するとパパはこう答えたのです。
「なれるとも!」そして、おにいちゃんを抱き上げて「きみが生まれた時にママがこういったんだ。
こんなかわいいおにいちゃんぐまはみたことがない、ってね」おねえちゃんを抱きしめて「きみが生まれた時ママはね、こんなかわいいおねえちゃんぐまはみたことがない、ってね。」
そして、ぼうやをうでのなかに抱き取って、「ママはこんなかわいいぼうやぐまは見たことがない、っていったんだ。」
「大きくても小さくても同じに愛しているよ。そうさ、きみたちみんながパパとママのたからものなんだ!」

こうして、世界中で一番かわいいこぐまたちは、幸せいっぱい眠りにおちていきました。やっぱりうっとりする答えだったからです。


この絵本を読んでいると、あたたかくてやわらかいものに包まれていくような安らぎを感じさせられます。
子どもは大きくなっていくに従って、自分の存在について確信をもちたくなります。
だれかに 自分の存在をしっかり受け留めてもらいたくなります。そんな自我が育ってくると、それぞれが0ne 0f themではなくonly oneの自分でありたいと思いますし、人とのかかわりもI and Youでありたいと願うのです。
このこぐまたちは、ちょうどそんな育ちのステージにきたのでしょう。
特に、父親母親に自分がどれだけ愛されているか、ということは子どもの一番重大な関心事であり自分を形成していく時の大切な確信部分になります。
これからの大きくなっていく過程での根っこになるところです。
子どもは率直に親にききます。
どれだけ自分を愛しているのか、と。
しかし、その時、親はどんなふうに応えられるでしょうか。
本当は一番わかってもらいたいことなのに、なかなか子どもに具体性をもって見えないものを見えるように伝えていくことはむずかしいのではないでしょうか。
この親ぐまたちのように、子どもがうっとりとして満足して眠りにつけるような愛の伝え方はなかなかできません。「あっぱれ」といいたいくらい見事です。子どもに伝えるのがとても難しい「愛」というもの、でも子どもはそれを確信しないと自己認識ができていかないのです。
子どもはだれでも愛されたいと思っています。子どもは愛されるためにこの世に生まれてきたのですから。
この絵本を読んで、やさしい気持になれるとしたならば、それは自分もこうして受け留められ、愛されているのだという確信をもらえるからではないでしょうか。
そして、それは他の人を愛していきたいという希望につながるからではないでしょうか。

2020年12月22日