このよで いちばん はやいのは


ロバート・フローマン 原作

天野 祐吉 翻案

あべ弘士 絵

福音館書店

 

「はやい」って なんだろう。

ウサギははやいかな。

たしかにカメよりは はやい。

でもツバメよりは おそい。

「はやい」とか「おそい」っていうのは、なにかに くらべて いえることだね。

ということばで始まるこの絵本。

ページを繰るごとにいろいろな動物や人や鳥や魚と速さを比べていきます。

そして、人間はツバメやチータより遅いけれど、ツバメやチータよりも速く走る道具を作り出したということで、新幹線や自動車、ジェット機などを紹介しています。

そして、それらよりもっと速い「音」を、その「音」より速いものとして「地球の自転」を、それよりももっと速い人工衛星や宇宙船を、と話はどんどん進んでいきます。

そして、人間がつくれる最高の速さをもっているその人工衛星や宇宙船よりもっと速いものは、と展開していって「地球が太陽の周りをまわる速さ」、それより速いのは「光」なのだといっています。

そして、この宇宙のなかには光より速いものはないと考えられていると書いています。

けれども、その光より速いものが存在するのだと最後に作者は子どもたちに話しかけます。

さぁ、それは何でしょう。大人も考えてみましょう。

意外なもの、そして、人間にしか備わっていない素晴らしい宝物。

うちゅうの はてにある ほしにも

なんびゃくねんさきの みらいの くにへも

いなかの おじいちゃんや おばあちゃんのいえへも

いっしゅんのうちに いくことができる。

そう、このよで いちばん はやいのは

わたしたちの そうぞうりょくだ。

人間の想像力。

その無限にひろがる 想像力の海を、君だけがもっているこの海を何よりも大切にしようといってこの本は閉じられます。

物語絵本が、子どもの喜怒哀楽の情を耕すものであるのに対して、科学絵本というのは、

子どもの知識欲に訴えて理解されるものといえましょう。

科学とは子どもたちの生活のなかの身近かな真理に気づくことから芽生え、疑問や追求を深めるなかで事の真理や道理や秩序に気づいていきます。

そのために子どもにとって科学絵本はとても有効な手助けをしてくれます。

しかしただ単に知識欲を満たしたり、学習をさせるために科学絵本があるのではなく、その根っこには、人間に対する理解や愛、自然の偉大さ、人知を超えたところの不思議な力などに気づけるものがなければならないと思います。

この「このよでいちばんはやいのは」は、1968年に「もっとはやいのはスピードのはなし」として出版されたものを、今回、新しく翻案して発行されたものです。

前半の速さを比べる展開のなかではぐいぐいと子どもたちの知識欲と興味をひっぱっていきます。

画も子どもの想像力の入り込めるシンプルさと子どもにおもねない画風が効果的です。

そして、最後は、ちょっとむずかしい哲学的な話になります。

子どもには少し、難しいかもしれません。

しかし、機械万能、IT神話のなかにいる現代人にとって、ともすれば人の可能性が機械に劣っているように思ってしまう危険性を訴え、今こそ人間を信じ、未来を信じて歩いて言って欲しいという思いが伝わってきます。

子どもは、今はわからなくても、きっと自分のポケットにしまっておいてその時がきたら取り出してきっと分かっていくことでしょう。

2020年12月23日