こぶたのピクルス


小風 さち 文
夏目 ちさ 絵
福音館書店

 

☆ 今月はお正月でもありますし、お子さんをひざに入れながらでもお家の方にじっくり読んでいただけるかなと思い、少し文章の多い幼児童話を選びました。(絵本と幼児童話の領域は微妙ですので私の見識の違いがあるかもしれません。)

この本は「おおきなポケット」という月刊誌に不定期に掲載された短編をまとめて出版されました。「ピクルスのわすれもの」「ピクルスと卵」「ピクルスの大ニュース」「ピクルスの海水パンツ」という構成です。

主人公は1年生のピクルスという“こぶた”で、おとうさんやおかあさんとのほのぼのとした生活の中で、“いのぶた”のおじいさんをはじめとするたくさんの人(?)との交わりや日常的なできごとを通して話が展開していきます。ピクルスはとてもやさしくて人との関わりも大好きな子なのですが、時には失敗もするし、困って泣いてしまったり、初めての体験にドギマギしたり、楽しみを待ちきれなかったりと、生きている等身大の子どもがそのまま描かれています。

子どもたちも、このお話が大好きで、このあと「ピクルスとふたごのいもうと」が発行されたと聞くと「先生、今度きっとピクルスの新しい本を読んでね」といわれました。

この「ふたごのいもうと」はお兄さんになったピクルスの奮闘振りが描かれています。

そのなかでもピクルスはおかあさんに甘えたくなったり、さびしくなったりしながらもじっくりと成長しています。

そこにはピクルスをめぐる周りの人たちのあたたかさ、特におとうさんおかあさんの愛にみちた関わりや、互いの信頼感あってこその確かな生活と成長なのですが、このおはなしの根底にもうひとつ、それを支える「ゆったりとした時の流れ」があるように感じます。生活の中のひとつひとつの出来事を大切に、そしてそれにゆっくりと関わっていく「時のありかた」がピクルスを豊かに大きくしていくのではないかという気がします。それは「ふたごのいもうと」の方に顕著に表現されているように思います。そのゆっくりとした時の流れがこの作品をほのぼのとしたあたたかいものにしているようにも思います。

そしてそれらのことは本来の子どもの成長の過程になくてはならないものであるように感じます。今の子どもたちは見るべきことも目に入ることなく、感じる余裕もなく、すべきことも省略されて急がされているように思います。時に流されずじっくりとゆっくりとひとつひとつを大切にしながら「今を育つ子ども」になってほしいと願います。

小風さちさんは、本当にお母さんのまなざしでピクルスを描いているように思われます。

きっとさちさんはピクルスのおかあさんのようなお母さんだったのでしょうね。そして子どもの心理を余すところなく分かっていて見事に表現しています。ことばもリズムもすっと入って来て、さちさん真骨頂の世界。

読んでいると生きているのが楽しくなるような、そして子どもって何て善良でかわいいんだろうと真から思える本です。ぜひゆったりと読んであげてください。

蛇足ではありますが、作者と画家の名前、おもしろいと思いませんか。

2020年06月01日