おだんごぱん


ロシアの民話・せた ていじ 訳

わきた かず 絵

福音館書店

 

昔むかしのお話です。
おじいさんが何かおいしいものを食べたいといいました。
おばあさんは、粉箱をごしごしかいて粉を集め、クリームを混ぜておだんごに丸めバターをぬってかまどで焼きました。
焼けたおだんごぱんは窓のところで冷やされているうちに、ころころところがっておもての通りに出ていきました。
おだんごぱんはのはらでうさぎに会いました。
うさぎは、「おだんごさん、おだんごさん。おまえをぱくっとたべてあげよう」といいました。するとおだんごぱんは、歌をうたいました。
「ぼくは天下のおだんごぱん。ぼくは粉箱ごしごしかいて、集めてとってそれにクリームたっぷり混ぜて、バターで焼いて、それから窓でひやされた。けれどもぼくはおじいさんからも、おばあさんからも、逃げ出したのさ。おまえなんかにつかまるかい」
おだんごぱんはこう歌うと、ころころころがってうさぎから逃げていきました。
こんどはおおかみに会いました。
おだんごぱんは、また、歌をうたって、食べようとしたおおかみから逃げていきました。
そして、ころがっていくとこんどはくまに会いました。
くまもおだんごぱんを食べようと呼びかけましたが、またまた、歌をうたって逃げ出しました。
またころころところがっていきますと、きつねにあいました。
きつねは、おだんごぱんをほめちぎりました。うれしくなったおだんごぱんはまた歌をうたいましたが、きつねは、「ああ、素晴らしい歌だ。どうかもういっぺん歌ってくださいな。
さぁこんどは鼻の上で。」
おだんごぱんは飛び上がってきつねの鼻の上で歌をうたいました。
「ありがとう。こんどはもっときこえるようにわたしのしたべろの上でうたって」といわれたおだんごぱんはきつねのしたべろに飛び上がった途端、きつねはたちまち口を閉じ、おだんごぱんをぱくっと、食べてしまいましたとさ。

このお話はロシア民話として古くからおなじみのお話です。
昔話といいますのは、語りが主ですので、繰り返しの音のおもしろさや、リズム、早い展開などが小気味よく体に刻まれて、幼いときに聴いたその語りが大人になってもはっきりと記憶に残り、その時に感じた感情までも思い出すことができます。
この絵本はその昔話を、瀬田貞二さんが見事な文章で語ってくれています。
一度聴いたら、すぐに暗記をしてしまうようなリズムをもっています。
このおだんごぱんの話の展開はおだんごぱんがころころと転がるそのテンポにあわせるようにどんどん場面がころがっていって、最後はあっけなくきつねに食べられてしまうという顛末になります。
その展開はスリルに満ちていて、特に、きつねがだんだんにおだんごぱんを口に近づけていくくだりでは本当に身が縮まるような思いになります。
どんなに幼い時からでも、そして、いくつになっても新しい感動を与えてくれる絵本です。
古くて新しい絵本、名作だと思います。

2021年01月21日