三びきのこぶた


イギリス昔話

瀬田貞二 訳

山田三郎 画

福音館書店

 

昔、おかあさんぶたと三匹のこぶたがいました。

おかあさんぶたはとても貧乏でこぶたを育てきれなくなって、自分で暮らしていくように三匹をそとにだしました。

まず、自分で家を造らなければなりません。

はじめにでかけたこぶたは、わらたばをかついでいる人に出会ってそのわらをもらい、家を建てました。

そこにやってきたのがおおかみです。

おおかみは、わらの家を ふうっとふきとばして、こぶたを食べてしまいました。

次のこぶたは木の枝で家を建てました。

ところがそこにもおおかみはやってきて、ふうっと枝の家をふきとばすと、こぶたを食べてしまったのです。

三番目のこぶたは、れんがをもらって家を建てました。

またまたおおかみがやってきて、家をふきとばそうとしましたが、どんなに力んでも家はびくともしません。

おおかみは、こぶたを家の外に連れ出すために、いろいろな知恵をつかいます。

「ごんべさんの裏の畑のかぶを一緒にとりにいこうよ。」とか、「公園のりんごをとりにいこう。」「町でおまつりがあるから一緒にいこうよ」とか誘いますが、そのたびにこぶたに先をこされておおかみはてんてこ舞いさせられます。

すっかり怒ったおおかみは、もう勘弁しないぞと、家のえんとつから降りていってこぶたを食べてしまおうとします。ところがこぶたは大なべにいっぱい水を入れて、下からぼうぼうと火をたきつけました。

そして、おおかみが降りてきたちょうどその時、なべのふたをとったので、おおかみはどぼんとおちました。

こぶたはふたをしてことこと煮て、ばんごはんに食べてしまいましたとさ。


このお話はみなさんよくご存知で、改めてあらすじを紹介することもないくらいです。

おかあさんぶたに自立を促されて、外にでたこぶたが、さまざまな危機や困難を乗り越えて勇猛果敢にたくましく成長していくお話です。

よく三匹のこぶたの中で、わらで家を建てたこぶたはめんどうくさがりの怠け者、小枝で家を建てたこぶたはまぬけの知恵足らず、一番最後のれんがの家を建てたこぶたが一番かしこくて、主人公、というように考えてしまいがちですが、子どもたちとこの「三びきのこぶた」を劇風にやってみると、年少・中くらいの子どもたちは、自分のやりたい役を決める時に、一番目のこぶたも二番目のこぶたも大好きでその役をやりたいといいます。もちろん三番目のこぶたは出番がたくさんあるので一番人気ではありますが。

子どもはどのこぶたにも愛着をもって、自然に受け入れてしまいます。

そんな子どもたちの様子や、話の展開をよく考えてみると、この三匹は、一匹の、というより一人の子ども、あるいは人間の 自立していく過程をあらわしているのではないかと考えると妙に納得してしまいます

こぶたがおおかみという敵に対して、その対処の仕方がだんだん知恵深くなっていく様は子どもが自立をしていく段階でさまざまなトラブルや課題や誘惑にあいながらも、経験を積み重ね、工夫を覚え、勇気と自信をもってひとつひとつを解決していく姿に重なります。

最初は弱々しいわらの家しか造れなくて、すぐに押しつぶされてしまったこぶたが、次はもうちょっと頑丈な小枝の家を造る。それでも大きなトラブルにあうとひとたまりもなくやられてしまう。そして、そんな経験を土台にしてレンガの家を営々と造る。すると、外界からの敵から自分の身を守ることができるようになる。それでも、危機はやってくる。

それに対して、自立しはじめたこぶたは、精一杯の知恵と行動をもって立ち向かっていくのである。という解釈は独断と偏見でしょうか。

しかし、最後におおかみを煮て食べてしまうというくだりには、自分の体験したすべてのことや、乗り越えた高い壁をみんな自分の中に取り込んでしまうことによって人は大きく成長していくのだというメッセージがあるように感じられるのです。

よく、おおかみとこぶたが仲良くなって一緒に楽しく暮らすというようなストーリーに変えてしまった絵本がありますが、それではこのメッセージには届かないように思います。

最後にこぶたはおおかみを食っちまうのです!。

4月、お子さんを幼稚園という「初めての外」に出されたお母様方、子どもはそこで勇敢に闘いながら、自分の居場所を確保し、知恵を増し、経験をたくさん取り込んで、たくましく成長していきますよ。どうぞ応援をしていてください。

2021年02月04日