ねぼすけスーザのおかいもの


広野多珂子 作

福音館書店

 

スーザとマリアおばさんは、オリーブ畑に囲まれた小さな村に住んでいます。
いつもねぼすけのスーザ。
おばさんにフライパンを10回たたかれなければ目がさめないのですが、今日はちょっとちがいます。

おばさんが起きる前に一人でおきて、ロバに乗ると、遠い町を目指してでかけました。
町についたスーザは、おいしそうなオレンジやかわいいお人形のお店の並ぶ市場を通り過ぎ、大きな通りの宝石やさんの前で立ち止まり、帽子やさんをながめ、靴屋さんの前で考えました。
一体何を捜しているのでしょう。

通りを進んで、スーザは突き当りのお店の中に赤いものを見つけました。
それは 素敵な 赤い椅子 でした。
「これだわ。わたしのさがしていたいちばんすてきなものはこれだわ」
スーザが、せっせと働いてためたお金の袋を渡して買おうとすると、店の主人は目をぱちくりしていいました。
「おじょうちゃん、これっぽっちのお金じゃあ、この椅子は買えないよ。」
がっかりしたスーザが、とぼとぼと歩いていると、壊れた家の前に椅子が捨ててあるのを見つけました。
スーザはしばらくその椅子をながめていましたが、そうだ!と、いいことを思いつきました。
その椅子をロバに乗せ、お店で赤いペンキと赤い布を買うと、急いで家に帰りました。
そして、そのまま納屋に駆け込んで……。
朝から姿の見えないスーザを捜していたマリアおばさんが、勢いよく納屋の戸を開けると赤いペンキだらけのスーザと出来上がったばかりの素敵な赤い椅子が見えました。赤いクッションもついています。
「おばさん、お誕生日おめでとう!おばさんの欲しがっていた椅子よ!」
マリアおばさんの喜びようはどんなだったと思います?
でも、次の朝、スーザはまた、ねぼすけスーザにもどっちゃったんですって。

 

「ねぼすけスーザ」の絵本は、シリーズになっていて、どれも読んでいてうれしくなる本です。
このシリーズは、「ねぼすけスーザのおかいもの」を始めとして、「ねぼすけスーザとやぎのダリア」「ねぼすけスーザとあかいトマト」「ねぼすけスーザのセーター」「ねぼすけスーザのオリーブつみ」と、つぎつぎに出版されました。
そして、今年の こどものとも4月号(福音館書店)に「ねぼすけスーザのはるまつり」が登場しました。

このお話の舞台はスペインの村。
そこに住む、愛すべきスーザという女の子と、それを取り巻く人々や動物、自然との濃密な共生が描かれています。

作者の平野多珂子さんが、かつてスペインで生活していた頃に体験した、ゆったりとした時間の流れや、コミュニティとしての人々の関わりややさしさ、生活のありようをこの絵本にして表現しました。

現代の日本の社会や生活とは隔世の感がありますが、本来、人が生きるということはこういう豊かさのなかでこそ培われるのだろうと思い、なつかしさとうらやましさを感じながら、暖かい思いで読んでいます。

2021年02月09日