クリスマスの森


ケルイーズ・ファティオ 作
ロジャー・デュボアザン 絵
つちや きょうこ 訳
福音館書店

 

☆この絵本は1950年にアメリカで発表されました。この本は、絵本というよりは色彩も限られていた絵物語風の小型の絵本だったため、日本では前田三恵子さんが「絵本にしたらもっと楽しい作品になるのではないか」と、柿本幸造さんの絵を得て1969年に偕成社から「サンタおじさんのいねむり」というタイトルで出版されました。

それが2015年に原書本がそのまま甦り、「くりすますの森」として福音館書店から出版されました。

私は、今まで「サンタおじさんのいねむり」がとても好きな印象深い絵本としてクリスマスの時期には必ずといっていいほど子どもたちにもよく読んできました。子どもたちも大好きな絵本です。

今回、「クリスマスの森」を読んで、ストーリーや人物描写などはそのままではありますが、逆に色彩の少ない分、その美しい赤と緑と茶色がとても際立ちクリスマスの雰囲気をより豊かに伝えてくれているように思います。サンタさんも動物たちも愛にみちて描かれていて、特にサンタが眠っているブナの木のまわりに動物たちが集まってくるページは秀逸だと思います。物語りもゆったりとしていてことばに余白がありお話に奥行きをもたせています。洗練された日本語訳の文章も美しく流れていきます。大人にもぜひ勧めたい絵本だと思いました。そして、ますますこの絵本が大好きな特別の絵本になりました。

この絵本が何故好きかというと、まずサンタクロースが実に人間くさい、実際に隣に住んでいるおじいさんという親近感があります。世界中の子どもたちの夢を背負っているサンタクロースが、そのプレゼントを配るという特別な日に、奥さんが作ってくれたコーヒーとサンドイッチを持ってでかけるということだけでもおもしろい。意表をつく設定です。

1974年にレイモンド・ブリッグズの「さむがりやのサンタ」が福音館から出版されて、そこでも人間味あふれたサンタの登場がありました。そんな中で、それまでただ空想の中のサンタの存在が、とてもリアルで生活観のあるサンタ像に変身し定着していったという感があります。サンタは子どもだけでなく、大人にとっても無くてはならない存在ですが、いかにも聖人とか、超人とかというのではなく、すぐ身近にいる「あたたかい隣人」というイメージを創ってくれた、いわば新鮮なサンタ物語として印象深かったと思います。

また、サンタが満腹になって眠り込んでしまったのを見て、(子どもたちから「あぁだめ、眠っちゃだめ」という声がかかる場面です。)森に住む動物たちが、みんなで力を合わせて町の子どもたちにプレゼントを届けるという展開に「あぁ良かった」という安堵感と一緒に、何か貴いものを見たような、この世の善意とけなげさのようなものを感じ取ってジンときます。無償で奉仕する貴さと喜び、思いやり。これこそクリスマスの神髄の部分なのではないかと思うのです。

そして、最後に、眠りからさめたサンタの目に、動物たちのメッセージが。決して姿を見せたり、恩をきせたりしない慎ましい動物たちの品格。それはサンタクロースの存在そのものです。そして「ありがとう。来年は君たちにもプレゼントを持って来るよ」と応えるサンタ。サンタさんもこのクリスマスに動物たちから世界一素敵なプレゼントをもらったのだと思います。サンタは森の中にも町にもすぐ隣にもいる、そんなメッセージを感じます。

また、今から47年も前に、この本に共感し、大事なメッセージをそのままに「サンタおじさんのいねむり」として絵本にした前田さん、柿本さんも素晴らしい。おかげで幼い子どもたちに、たくさんの夢と喜びを与えてくれました。

ルイーズとロジャー夫妻はこの他にも「ごきげんなライオン」のシリーズなどを発表していますが、こんなに愛にみちた、そして楽しいものがたりの世界を創り出せることに敬意を表します。

2020年06月02日