ありこのおつかい


いしいももこ さく

なかがわそうや え

福音館書店

 

ありの ありこは、おかあさんから、おばあちゃんにおいしい草の実を届けるようにいいつかります。
ありこが、森の中をみちくさをしながらのろのろと行くと、あおいつる草が目にはいりました。
そのつる草をぎゅっとひっぱってみました。
すると、そのつる草はカマキリの きりおの足だったからたまりません。
怒った きりおは、ぺろりとありこを飲み込んでしまったのです。
「いやだぁ、あやまったのにたべるなんて ばかぁ」となきながら、ありこは きりおのおなかのなかへ。でも、ありこは、おなかのなかでも大騒ぎ。
きりおは、ありことけんかしながら行くと、ムクドリのむくすけと出会いました。
むくすけは、ありこの「ばかぁ」という声を聞いて、きりおが自分のことをいっているのかと怒り出しました。
そして、きりおをぺろりと飲み込んでしまったのです。
「ちがうちがう、ぼくじゃない。とんちきめ」と叫び続ける きりお。
きりおのおなかにいる、ありこも黙っていません。
むくすけが、おなかの中の2ひきとけんかをしながら行くと、突然、ヤマネコのみゅうが現れて、「なんだと、おれがばかのとんちきだと?」と怒って、ぺろりと むくすけを飲み込んでしまいました。
むくすけは みゅうに飲み込まれても、「わるものぉ」と言い続けています。
きりおも ありこも叫んでいます。
みゅうは おなかの3びきとけんかをしながら行くと、こんどは大きなクマのくまきちに会いました。そして、「だれだ、おれを、ばかのとんちきのわるものだっていったやつは?」と怒って、みゅうをぺろりと飲み込んでしまいました。
さて、今日はくまきちのお誕生日。おかあさんがおいしいごちそうを作って待っていました。
そして、くまきちを おめでとう と抱きしめたとたん、「くるしい!」「ばかぁ!」「とんちき!」「わるもの!」と聞こえてきたのでおかあさんはびっくり。
「何て悪い子!」とおかあさんは怒って、くまきちのお尻をぽんぽんと叩きました。
すると くまきちの口から、すぽーんと みゅうが飛び出してきました。
みゅうのお尻を叩くと、むくすけが。むくすけの口からは きりおが。
そして、きりおの口からは ありこが 赤い帽子を横っちょにかぶり、草の実の入ったかごをしっかり抱いて飛び出してきました。
そして ありこは「わたしが悪い子だったからみんなじゅんじゅんに悪い子になっちゃったの」と泣きながらはなしました。
くまのおかあさんは、「そうだったの。それじゃあみんなでごちそうを食べて仲直りをしてちょうだい」といいました。
みんなで仲良く食べたごちそう、おいしかった!


この絵本は1968年に出版されてから35年以上、子どもたちに支持されて版を重ねているロング、ベストセラーです。
石井桃子さんの文と物語はリズミカルで、ユーモアにあふれています。
ちいさい ありの子が、カマキリに飲み込まれ、そのカマキリがムクドリに、ムクドリがヤマネコに、そしてヤマネコがクマにと だんだんに大きなものに飲み込まれていくという設定は、弱肉強食の自然界をリアルに描いているようにも感じられますが、おもしろいのは、小さい弱いものが絶対に妥協しないところです。
みんなそれぞれ自分を精一杯主張しています。
そして、この先、どうなってしまうのかなというドキドキ、ワクワクするなかで、最後は、クマのおかあさんという大きな存在を通して、思ってもいないようなびっくりするかたちで大きな動きが生まれ、みんながひとつになり、楽しいパーティをするといううれしい展開になります。
読んでいた子どもたちは、そこでほっと安心して暖かい気持になるのです。
また、このお話を支える中川宗弥さんの絵がとてもモダンで、その色使いや空間のとりかたの見事な構図はページごとに一枚の絵画を鑑賞しているようにさえ感じます。
幼いときにこのような絵本に出会えたら幸せですね。

2021年03月03日