ふたりだけのキャンプ


 

松居 友・文

高田 知之・写真

西山 史真子・絵

童心社

 

あるひ、牛小屋の掃除をしながら、父さんがゆうじに2人だけでキャンプに行こうと誘いました。
父さんと2人だけでキャンプに行くのは初めてです。
それに、テントも持たず、お米と塩と味噌だけを持って行くキャンプなんていつもとちょっと違います。
父さんは「ほんとうのキャンプだ」といいます。
2人は、トラックに2枚の荷造りシートと針金、飯ごうとナタとナイフ,ヤスと釣竿、そしてカヌーを積んで出発です。
父さんの秘密の場所に向かっています。ゆうじの知らないところです。
どんどん山の奥に入ります。ゆうじは不安になりました。
もう道がないというところで車を降りると、今度はやぶの中をカヌーを押して進みます。すると、目の前に虹のように輝く湖が現れました。
カヌーを浮かべて対岸に渡ります。
父さんはおいしい湧き水をゆうじに飲ませながら、「おれたちの先祖は、昔からここを泊まる場所として大事にしてきたんだ」とはなし始めます。
そして、父さんは慣れた手つきでシートを使って寝場所をつくり、誰かが残していった燃えさしの木で焚き火をし、夕ご飯の支度にとりかかります。
カヌーで湖に漕ぎ出すと、ゆうじは釣竿でヤマメを、父さんはクマのような顔になってヤスを構え、大きなニジマスをつかまえました。
焚き火のまわりでたべる夕飯のおいしいこと。
踊る火から、目を天に移すと、今まで見たこともない、こわいぐらいきれいな星空。
ゆうじはその星空の下、初めて森のなかで眠ったのです。


北海道の大きな自然が、文と絵と写真がうまく絡み合って、蕗や笹、木々や焚き火のにおいまでをも感じさせながら手に届くかのように身近に感じさせてくれます。
父と息子が、日常の生活から抜け出して、自分とは何か、人として生きるということは何かという、神聖な儀式のような時を過ごします。
今、生きている自分は、ただここにいるというだけではなく、連綿とつながる偉大な命の継承の中にいること、そして、それは自然と共にあり、その自然のなかで時を越えて一体となりうること。
自然はこわくなるほど偉大なものであり、私たち人間も、クマも、魚も、同等にその一部に過ぎないのだということ。
父がかつてその父から受け継いだであろう生き様や世界観が、ことばを超えて雄大な自然の中で力強く息子の体に入り込んでいく様子が、感動をもって伝わってきます。
深い、重い感動とともに読む本です。

2021年03月04日