おおかみと七ひきのこやぎ

フェリクス・ホフマン え
せた ていじ やく
福音館書店
むかしあるところに、こやぎを七匹育てているおかあさんやぎがいました。
ある日、おかあさんやぎはたべものを捜しに森にいこうとしてこやぎたちに留守番をいいつけました。
こわいおおかみに気をつけるようにと言い置いて。
しばらくしておおかみがやってきて戸をたたきました。
「おかあさんだよ。あけておくれ」
しかし、利口なこやぎたちは おかあさんの声ではないことに気がついて戸をあけませんでした。
次に、声を変えてやってきたおおかみはまた戸をたたいていいました。
「おかあさんだよ。あけておくれ」
でも利口なこやぎたちは真っ黒な足に気がついて戸をあけませんでした。
おおかみは白い足にしてまた、やってきました。
声もやさしく、足も白い。
こやぎたちは「おかあさんだ!」と戸をあけてしまいました。
飛び込んできたおおかみは、急いで隠れたこやぎたちを次から次へとひとのみにしてしまいました。
森から帰ってきたおかあさんやぎの驚きと悲しみといったら!
でも時計の中に隠れた一匹のこやぎが見つかったのです。
そのこやぎを抱いて泣く泣く外へ出て行ったおかあさんは、そこにおなかがパンパンにふくらんで眠っているおおかみを見つけたのです。
おなかがぴくぴく動いています。こやぎたちは生きている!
おかあさんははさみでおおかみのおなかを切っていきました。すると、次々にこやぎたちが飛び出してきました。
おかあさんは子どもたちとおおかみのおなかに石をつめこむと糸で縫い合わせました。
おおかみは目をさますと、水を飲みたくなりました。
そして、井戸の上にかがんだ途端、おなかが重くて中に落ちてしまいました。
おかあさんやぎとこやぎたちは井戸のまわりで大喜びをしました。
このおはなしは誰でも聴いたことがあるグリム童話です。
この絵本の絵はフェリクス・ホフマンが描いていますがとてもリアルに、そして豊かな表現によって記憶の中にあるおはなしを新鮮な感動と共によみがえらせてくれます。
そして、文章も瀬田貞二さんの訳によって、無駄のない、それでいて想像力をふくらませてくれることばで物語られています。
しっかりとした本だと感じます。
私はこの本の中の、おかあさんやぎとこやぎの関係が大変興味深いと思います。
お母さんやぎは こやぎたちが生きていくために一生懸命に働きます。
そして、こやぎたちが自分で自分の命を守れるように危機やその危機を察知したり乗り越える知恵を適切に教えます。
そして自分のこやぎを守るためには自分の危険や命も顧みず思い切った行動にでます。
何とたくましいおかあさんやぎ!
そして、こやぎたち。
おかあさんやぎを絶対信頼しています。
こわいおおかみを敵にまわして、きりきりまいをさせる頼もしさ。
みんなおかあさんやぎに学んでいます。
愛というのは、ただかわいがったり、子どものいうなりになることではなく、子どもに絶対信頼できる存在感と生きるモデルを示すことでもあるのだということをこの本から学びます。