王さまと九人のきょうだい


君島久子訳

赤羽末吉絵

岩波書店

 

昔々のお話です。あるところに子どもがいない老人夫婦がいました。
あまりのさびしさにおばあさんが泣いていると、白い髪の老人が現れ、丸薬を9つさずけます。その丸薬を飲むとおばあさんのおなかが大きくなりいっぺんに9人の男の子が生まれました。
そして髪の白い老人から名前をもらいます。
「ちからもち」「くいしんぼう」「はらいっぱい」「ぶってくれ」「ながすね」「さむがりや」「あつがりや」「切ってくれ」「みずくぐり」。
変な名前でしょう?。
この9人の兄弟は老夫婦が何もしないうちにいっぺんに大きくなりました。
みんなそっくりです。

ある時、王さまの宮殿を支える大事な柱が突然倒れてしまいました。
王さまは国中に「この柱をもとどうりにした者には望みのほうびをとらせる」とおふれを出しました。
そこで兄弟は相談をして「ちからもち」が出かけていくと夜のうちに倒れた柱をちゃんと元どおりにして帰ってきました。
王さまはびっくりして怪力の正体を探させようやく9人の兄弟の一人がなおしたことを突き止めました。でも信用できない王さまは大きなお釜にごはんをいっぱいたかせて食べさせることにしました。「このごはんが食べられなかったらおおうそつきの罰として牢屋にぶちこめ。」と。
そして兄弟はまた相談をして今度は「くいしんぼう」に行ってもらうことにしました。
ぺろっとたいらげた「くいしんぼう」。王さまはこわくなっていったんは家にもどしましたがそれからというもの、自分がやっつけられてしまうのではないかと心配でたまらなくなりました。そしてあの男をやっつけてしまなわなければと計略をめぐらしたのです。
さぁ、これからが王さまと兄弟の知恵比べ、力比べ。
つぎつぎに難問がだされそのたびに兄弟が力をあわせて立ち向かいます。
最後に「みずくぐり」が口いっぱいにふくんだ水をぷうーっと王さまめがけてふきかけると、王さまも宮殿もすべて波にのまれてしまいました。
それからは王さまにひどいしうちを受けることもなく、人々は幸せに暮らしたということです。

 

これは中国の昔話です。9人の兄弟がそれぞれ自分に与えられた力を合わせ王さまという大きな力と対決をして勝つという胸のすくような物語です。それも与えられた課題が考えられないような途方もないものですから読者としてはどうなるんだろうとハラハラしてしまいます。
人間のもつ知恵や能力をはるかに超えたスケールの大きい展開に眼を見開き、心踊るような思いで一気に読み進みます。
冬の日、それもお正月というと世代を超えて昔話を楽しむという古き良き習慣が日本にはありました。この物語も中国で古くから何世代にもわたって語り継がれ子どもの夢を紡いできたものだと思われます。
この本が出版されこの物語が日本に紹介されてから35年。日本でももう何世代にもわたって読み継がれています。それは物語のおもしろさに加えて、訳と絵の素晴らしさにも因るものが大きいと思います。印象深い絵は心にいつまでも残り続けています。
昔むかしあるところに、といったようにゆったりとそして物語の展開に沿ってテンポよく爽快に「語るように」読んであげたい絵本です。

2021年03月19日