まんまるおつきさまをおいかけて

ケビン・ヘンクス 作・絵
小池 昌代 訳
福音館書店

☆こねこは、初めて見たまんまるおつきさまが、ミルクの入ったお皿に見えました。あの中のミルクが飲みたい、とこねこは階段から跳び上がったり、追いかけたり木の上までかけのぼったりしますが、届きません。やがてこねこは池の中に映った大きなお皿を見つけて池の中にサブン。びしょ濡れでヘトヘト、おなかもグウグウになってお家に帰ると、階段の上にミルクの入った大きなお皿が置いてあります。こねこはようやくミルクにたどりつきました。というストーリーです。

白と黒だけで表現された絵、シンプルな背景がよりこねこと月を強調して読者を画面に引き込みます。絵の配置がとてもモダンです。こねこの表情も素晴らしい表現力で描かれています。読んでいると幻想的で不思議な世界に遊んでいるような思いになります。

シンプルと言えばことばも実にシンプル。余分なことばはありません。主人公のねこだって「こねこ」、名前もないのです。とてもユニークな絵本だと思います。

でもこのお話の中にはキーワードが繰り返されているように思います。

「こんなはずじゃなかったのに」ということば。お皿の中のミルクを飲みたいと一生懸命月に向かって挑戦するのにことごとく失敗。そのたびにでてくることばです。

「今夜は一体どうなっているの」という不思議不思議な世界を初めて知ったこねこが自分の想像を遥かに越えるその途方もなく大きい世界に「こんなはずじゃなかったのに」という思いを繰り返します。そして失敗してもそれであきらめずに何度も挑戦を繰り返します。子どもは初めての世界に出合うとき、今までの自分の生活や思考の領域を越えて新しい体験や不思議に出合い、「こんなはずじゃなかったのに」ということが多いのではないかと思います。そこから、だんだんに成長に従って事実や真理を知り受け入れていくのではないかと思います。「こんなはずじゃなかったのに」ということばはそんな段階の子どもの心理をうまく表現しているなと共感をもって響きました。

そしてこねこは、最後にいつもの自分のすぐそばにある今の自分の身の丈にあった世界に戻ります。そして「あぁ しあわせ」と今の幸せを実感するのです。

2020年06月03日