かもさん おとおり


ぶんとえ ロバート・マックロスキー
訳 わたなべ しげお
福音館書店

 

かものお父さんとお母さんは卵をあたため、ひなをかえすのに一番いい場所を捜してボストンの町の上空まできた時、公園の池の中の小島を見つけて降りていきます。
そこは大変気に入ったのですが、乗り物に驚いて、近くの川の小島でひなをかえすことにします。
やがて、8個の卵から子がもが生まれ、お母さんがもはたくさんのことを教えて育てます。
そしてもっと子どもたちにふさわしい場所をと川を調べに行ったお父さんが待っている公園の池までお引越しをすることになりました。
公園までは道路を渡り長い道のりを歩いていかなければなりません。
車はひっきりなしに走ってきます。かもの親子は大丈夫でしょうか。
その時、仲良しになっていたおまわりさんが走ってきて自動車を止め、パトカーを出してエスコート。
かもの親子は街を無事通りぬけ、池に到着できました。
そして、かもの親子の快適な新しい生活が始まりました。


この絵本はロバート・マックロスキーさんの絵と物語、それに渡辺しげおさんの日本語訳が一体となってリズム感とさわやかさにあふれた素晴らしい絵本だと思います。
絵を見ていると、自分もかもになって空を飛んだり、上空から下の世界をながめたり、水の上を泳いだりしているような思いにさせてくれる程、描かれた視点がかもの目の高さであることを感じます。また、その表現は細部にわたって写実的で生活的です。
そして、ことばもストーリーもすべての表現に愛が満ちているように感じられます。
こがもを慈しんで育てる親がもの真剣なそして深い愛が伝わってきます。
かもの親子の引越しの場面では人間とのあたたかい交流がユーモラスに描かれこの物語の圧巻になっているのですがそこにも作者のものを見る目のあたたかさを感じさせてくれます。
ところで今から、二十年程前でしたか、東京の真ん中で、全くこの絵本と同じ出来事があったことを覚えていらっしゃいますか。
新聞の記事になり、それを驚きと喜びをもって読んだのですが、その時感じたことも「あたたかさ」でした。
文明の中にあって自然の小さな営みを守り支えた人々の思い、そしてそれを大切なこととして記事にした新聞社、その時代にあって人々に忘れてはならないものとして鐘をならす意図もあったのかもしれません。
わたしたちの生活、社会の中に「かもさん、さぁおとおり」というあたたかさをもち続けたいですね。

2021年04月19日