こすずめのぼうけん

ルース・エインズワース作
石井桃子訳
堀内誠一画
福音館書店
初めて羽を動かして空を飛んだこすずめのお話です。
おかあさんすずめから飛び方を教わって空にはばたいたこすずめは、もっと遠くまでいけそうだと思い、おかあさんの制止もきかずに遠くまででかけます。
でも途中で羽も頭も痛くなって飛ぶのがつらくなってきたこすずめは、にれの木のてっぺんにひとつの巣があるのをみつけて、その巣のふちに降ります。その巣にはおおきなからすがすわっていました。
そして,「休ませて」というこすずめに、「おまえはかあ、かあ、っていえるかね?」とたずねます。「ぼく、ちゅん、ちゅん、ちゅんってきりいえないんです」とこたえると「じゃあ中にいれることはできないなぁ。おまえ、おれのなかまじゃないからなあ」といわれてしまいます。
しばらくまた飛んでいくとひいらぎの木のたかいところにあるひとつの巣をみつけて飛んでいくとそこはやまばとの巣でした。そこでも仲間じゃないといわれて追い出されてしまいます。それからこすずめはふくろうの巣やかもの巣をみつけては休ませてもらおうとしますが、やはり中に入れてもらうことはできませんでした。
あたりは真っ暗になってきました。こすずめはもう飛ぶことができません。
こすずめは地面をぴょんぴょん歩きました。するとむこうからもぴょんぴょん歩いてくる鳥がいます。
「ぼくはあなたの仲間でしょうか」とたずねます。すると「もちろん仲間ですとも。私はおまえのおかあさんじゃないの」。
一日中こすずめを捜して飛び回っていたおかあさんとめぐりあったのです。おかあさんのせなかにおぶさって飛んで帰った巣の中でこすずめはおかあさんのあたたかいつばさの下で眠りました。
こすずめが意気揚揚と大空に飛び出し、自分はこんなにできるのだ、こんなに大きくなったのだと喜ぶ中でつい自分を見失ってしまい、さまざまな出来事や怖さやせつなさや混乱を体験します。その中で自分探しをしていき、そして自分の生きるベースを確信していくというものがたりです。
小さい子どもがおかあさんの両腕の中からのがれて自分にはもう何でもできるんだといって一人歩きをはじめようとする姿はよく見られます。
その自立への欲求と実力は必ずしも一致しているとは限りません。
しかし子どもは飽くなき挑戦を繰り返し、その中でたくさんの人と出会い、自分との違いに気づいたり、世の中にはさまざまな人や生活や価値観があることに気づいていきます。
そして自分の姿、自分の仲間、自分の力を知っていくのです。
そんな時、やはりいちばんのベースになるのはおかあさんの大きなあたたかい羽の下です。
そのベースがあるからこそ子どもは空高く冒険の旅に出て行かれるのです。