プーさんとであった日

リンジー・マティック ぶん
ソフィー・ブラックコール え
山口 文生やく
児童図書館・絵本の部屋

 

☆この絵本は2016年にコールデコット賞を受賞したイラストの美しい絵本です。

みなさんはアレン・アレクサンダー・ミルン(A・A・ミルン)が書いた「クマのプーさん」の物語はよく知っておられると思います。この本は今から90年前にイギリスで出版され、今でも世界中で愛されている本です。そのモデルのクマのプーの物語を百年の時を超え貴重な証人のことばを通して描かれたのがこの絵本です。

クマのプーは、生きている本物のメスのクマでした。カナダでハリー・コールボーンという獣医師に出会い、ウィニペグという名前をつけてもらって、第1次世界大戦の時の任地であるイギリスに連れて行かれます。ウィニーは軍隊の一員として連隊長にも認められマスコットの役目を果たします。しかしフランスの戦線に行かなければならなくなったハリーは危険を回避するためウィニーをロンドン動物園に預けます。そこでお父さんのミルンとやってきたクリストファー・ロビンと出会うのです。クリストファーはよく囲いの中に入りウィニーと一緒に遊びました。その様子からおとうさんのミルンが発想を得て一冊の本にしたのです。それが「クマのプー」です。

その後、ハリーはウィニーを連れ帰るために来ましたがロンドンの動物園で大切にされているウィニーを見て、そのまま一人で故郷にもどっていきました。

この本はハリーのひ孫のリンジーが、ひいおじいさんとクマの話を息子のコールに語ってきかせるという構成で描かれています。

クマのプーが女の子だったこと、カナダの出身だったこと、戦争の中で数奇な運命をたどったこと、獣医師のハリーのやさしさと深い愛の中でウィニーが賢くやさしく育ったこと、その物語が長い年月語り継がれてきたこと、など事実を知って「そうだったの」と驚きをもって読みました。そして、なによりびっくりして読み返してしまったのが、動物園で囲いを越えてクマと子どもが遊んだということ。「ハリーに深く愛されて育ったウィニーは動物園でも特別人なつこくおだやかだったため、当時は檻に入って一緒に遊ぶことができたそうです。」と注には書いてありますが、今とてもそんなこと考えられませんよね。

そのハリーの愛を物語っていることばがあります。ロンドン動物園にウィニーを預け、別れる時にいったハリーのことば。「おぼえていてほしい、だいじなことがある。ぼくたちが、はなればなれになっても、ずっときみを愛しているよ。きみは、いつまでも、ぼくのたいせつなクマだ」

他者から大切にされ、愛されるということはどんな境遇にあっても希望とやさしさを失うことなく自分を幸せに導いていく力を与えられることなのだと感動をもって受け止めました。

実在したクマのプーのものがたりを堪能しました。

2020年06月04日