およぐ


なかの ひろたか 作
福音館書店

 

☆この絵本は1978年に 月刊絵本かがくのともとして発行されました。今、かがくのとも傑作集としてハードブックで出版されています。ロングセラーですね。

水が顔にかかって泣き出す子、顔を水につけるなんて「いやだ!」と思う子、そんな子がどうやったら泳げるようになるんだろうということをとても理論的に、そして納得できるように描いた絵本です。いってみれば泳げるようになるテキストとでもいいましょうか。

かくいう私も水は苦手で、できれば泳ぐという事態は避けたい、水の災害には遇いたくないという人間です。顔を洗う時も水の扱い方がとても下手で周りを水浸しにしてしまい、そんなことからも水に対していつもコンプレックスを持っています。

そして私の息子も負けず劣らず水が苦手でした。

小学校に行ってから、プールで泳ぐ授業があり、成績表に泳げるかどうかが評価の判定になったり、プール参観があったりと泳げるかどうかということがかなり学校生活の中でもプレッシャーになってきました。でもどうしても顔を水につけたり呼吸を止めてもぐったりする事が出来ません。彼は彼なりに必死だったと思いますがそんな時、幼稚園時代に読んだこの「およぐ」を何回も何回も読んでいました。

なかのひろたかさんの「犬も猫も他の動物もみんな体が浮くから泳げるんだ。人間も吸い込んだ空気が浮袋の役割をして浮きやすくなる。プールに入ったら、初めはゆっくり歩く。走る。そして空気をいっぱい吸いこんで浮かんでみよう。」ということばと絵はとても科学的で説得力があります。そして顔に水がかかるのがこわい、という子は、「まずシャワーや水のかけっこをしよう。そして洗面器の水に顔を入れて息を吐く練習、目をあけてもぐる練習が終わったら、体を横にして浮かんで足をバタバタする。ほらおよげるぞ」とそこにいるコーチのように教えてくれています。しかし、何回も読んで納得しても、息子はいざとなると泳ぐところまでいきませんでした。

でも3年生の時、すごい奇跡がおこりました。

彼は「背泳ぎ」を覚えたのです。顔を水につけなくても、息を止めなくても泳げる「背泳ぎ」を。顔に水があまりかかりませんしね。

そして体が浮かぶこと、手足をバタバタすると前に進むことを体得しました。

その後、大人になってから彼はスキューバダイビングを楽しむようになりました。

何と人の一生は長い紆余曲折を経て形成されていくんだなと思います。

なかのコーチ、懇切丁寧なご指導 ありがとう。

2020年06月08日