せかいいちのはなし

北 彰介 作
山口 晴温 絵
金の星社
むかし、津軽にあった はなし。
せかいで、いちばん でっけえ はなし。
と津軽のことばで始まり語られていくこのお話。
八甲田山のてっぺんにいたおおわしが「世界でおらほどでっけえものはいねえべな。世界めぐりさでかけていってみんなさえばってやるべがな」と旅に出たのはよかったのですが、1日いっぱい飛び続けてもがさえびの右の髭から左の髭へやっと届いたことを知り世界一の名前をがさえびに譲ることに。
そのがさえびがうれしがって「えばってやるべ」と旅に出たところ、一日いっぱい水をかいて泳いでもおおうみがめの右の鼻から左の鼻へやっと届いたものだからびっくり。
その上、そのうみがめがのっかっているのはまだ子どもの小さなくじらの背中の上だと知って、がさえびは「世界ってひろいもんだなぁ。えばっていたのが恥ずかしい」と小さくなって帰っていったというお話です。
津軽の訛りの語りの文、そして素朴で雄大な版画の絵がお互いに引き立て合って雰囲気を盛り上げ楽しい、そして壮大な昔話の世界を創り出しています。
昔話ですから、自分の身の丈を知るということが賢い大人になることなんだぞという教えでもあるのでしょうし、井の中のかわずは恥をかくぞという教訓でもあるようなお話です。
このお話はきっと何代にもわたって、それぞれの家でおじいちゃんやおばあちゃんが、いろりやこたつで子どもたちにおもしろおかしく語り継いできたお話なのではないかと思います。
子どもたちは、津軽のことばでゆったりと語られる物語を聴きながら大わしが空を自由に飛び、がさえびがしぶきを立てながら海を泳ぎ、うみがめが鯨の上にちょこんと乗っている様を想像し目を輝かせて聞きいっていたのではないでしょうか。
30年ほど前、私は遠野の語りべ鈴木サツさんの昔話の語りを聴いたことがあります。
最初は何を語っておられるのか全く分かりませんでしたが、そのうちその語調の中にある豊かな表情の中に、ことがらを伝えるだけではない、その話の風景や情景、悲しさやおかしさなどの奥行きの深さを感じとることができるようになりました。
語りというのはその土地のすべてを包括している文化だと思いました。
願わくは津軽弁でぜひこのお話をきいてみたいものですね。
見えないものが見え、聞こえないものが聞こえたくさんのものが感じられるような気がいたします。
絵本を読む時は、ゆっくり語って聴かせるようなつもりで丁寧に津軽弁で書かれている文を読むと、少しでもこの話の雰囲気とおもしろさが伝わるように思います。
お正月、子どもたちをひざの中に入れてゆったりと読んであげたい絵本です。