もじもじこぶくん

小野寺 悦子ぶん・きくち ちき絵
福音館書店
恥ずかしがり屋のこぶたの「こぶくん」。
アイスクリームを買いにいきますが、お店の前で声が出なくなって下を向いてもじもじもじもじ。
後から来たお客さんたちが次から次にアイスクリームを買って行ってしまいます。
それでもこぶくんはもじもじ。うなだれて鼻の先が地面に届きそう。
その時、どこからか小さな声が聞こえてきました。
「アイスクリームください!」アリのありいちゃんが声を張り上げていました。
ありいちゃんは「さっきからずっと注文しているのに、誰も気がついてくれないの」と涙を流しました。それをきいたこぶくんは、ありいちゃんを肩に乗せると自分でもびっくりするくらい大きな声で「いちごあじとチョコレートあじをくださーい!」と言えたのです。そしてこぶくんのチョコあじもありいちゃんのいちごあじもとってもおいしくて、もうもじもじなんかしていられないこぶくんでした。
☆こどものとも2016年4月号です。
小野寺悦子さんの文ときくちちきさんの絵がぴったり息が合っていて、表紙を見たとたんに「あ、おもしろそう。」と思いました。
恥ずかしがり屋でいつももじもじしているこぶたのこぶくん。その表情が本当にそのままに描かれています。周りにいる子どもたちの中にもこんな表情と仕草をする子どもがいます。いざとなるとなかなか声が出ないでもじもじして人の後にかくれてしまうような子。
見ている方はいじいじしたり「がんばれ!」と声をかけたくなったりします。
年長組になったWちゃんもそんな一人でした。それが4月、新しく小さい人たちが入園して来てごっちゃごっちゃの生活の中のある日、そのWちゃんが教師のところに駆けてきて「先生!たいへん!ちっちゃい子が木にのぼっているよ!降りられなくて泣いてるよ!」と叫びました。わぁお、大変!とばかりWちゃんの後に続いて現場に直行。泣いている子を抱きとめました。幸い、木とはいっても切り株でその上に上った子が下りられなくなったということでしたが、次の瞬間、そこでほっとしたような表情で立っているWちゃんを見て、Wちゃんが?こんな大きな声で?こんなに機敏に?とびっくりしました。
ある事態がおこった時、それを敏感に気づき(この気づくということがとても大切)、そこで自分が期待されていることや、使命感のようなものを感じ取った時、人は自分でも想像できないくらいの行動力や勇気がでます。
この絵本のなかでも、ありいちゃんの声に気づき、その嘆きに共感し、何とかしてあげたいという思いをもったこぶくんが思いもかけないような勇気が出て突き動かされていったという姿が本当によく表現されていて、最初は小さく小さく描かれていたこぶくんが壁を乗り越えたとたんに画面いっぱいの姿になっていくという表現でもよくわかります。子どもの成長っておもしろい。
そして子どもだけでなく、大人だって人との関係性の中で思いもよらない自己変革をおこしていく力があるのではないかと一人で納得しています。