とんでもない


鈴木のりたけ
アリス館

 

ぼくはふつうの男の子。

ぼくにしか出来ないこと、ぼくにしかないすごいところ、そんなのひとつもみつからない。「サイ」はいいなぁ。よろいのようなりっぱな皮がかっこいい。あーぁうらやましい。

ところがサイは「とんでもない!こんな重いよろいなんて大変なんだよ。「ぼくはピョンピョン跳ね回れる うさぎの方がいいな。」

うさぎは「とんでもない!ぼくだってはねすぎちゃって困ることがあるんだ。大きな体で海の底をゆったり泳ぐ くじらだったらいいのに」

でもくじらは「とんでもない。どうせ大きいんだったらいろんなものを見下ろすきりんの方がいい」

きりんは、「とんでもない。首が長いのも苦労があるんだ。空を自由に飛ぶ鳥になれたらどんなにいいだろう」

鳥は「とんでもない。逃げなくていい 強いライオンだったらいいのに」、

そしてライオンは「獲物を追いかけまわすのも大変。人間の子のように本でも読んでごろごろして過ごしたいわ」

ぼくは「とんでもない。人間の子だっていろいろ大変なんだよ。」でも「自分にないものはよく見えるけどあったらあったでいろいろ大変。ぼくはぼくでいいんだな」と思った。

 

☆鈴木のりたけさんの最新作です。独特の存在感がある絵ときれいな色彩がストーリーを膨らませ、ユーモラスに展開させていきます。

子どもがだんだん自分以外の人やもの、ことがらに目を開かれるようになってくると、自分との比較のなかで自分のもっていないものに気が付き始めます。そして他の人がもっているものがとてもいいもののように見えてくるのです。

よろいをしょっているサイがとても強くてかっこよく見えてきて、自分は何て弱々しいんだろうなんて思い始めるのです。

でも他の人に「いいなぁ」と憧られるその人にも自分にないものを持っている憧れの人がいて決して現状の自分が最高だとは思っていない。みんな弱さや苦労を持っています。

そういう本音を知った時、「ぼく」は自分は自分でいいんだなと納得するのです。

このことは子どもが自分探しをする大切な過程だと思います。

人は一人だけでは自分を探し出せない。たくさんの人やもの、ことがらに出会いながら自分の姿を見つけだしていくのだと思います。そして最終的に自己肯定感をもって「自分は自分でいいのだ」というところに行き着けたら最高だと思います。

 

私たちは保育者として子どもたちの「自分探しの場」に臨場し共に生活しています。

子どもたちはたくさんの友達との関わりのなかで人と自分との違いや共通項に気づき、また友達を鏡として自分の姿の輪郭ををおぼろげにでも見つけだしていきます。そんな子どもたちが「自分は自分でいいんだ」と自己肯定ができるように、私たちはその過程に丁寧に付き合い、その存在を支えていきたいと思います。

2020年06月12日