あおいちびトラ
アリス・シャートル文 ジル・マックエルマリー絵
中川 ひろたか 訳
保育社
青い小さなトラック、「ちびトラ」は、カエルや羊や牛や豚に挨拶しながらゆっくりと走っていく。鶏やひよこ、やぎの挨拶にも「ブッブー」と返事する。
馬やあひるにも「ブッブー」ってほほ笑み返す。
その時、「ブォーン!」「どけ どけ どけ!」とすごい速さのダンプカーがやってきてカーブを曲がりきれずにドロの中、身動きできなくなった。
助けて!と叫んだけれど、その声は誰にもきこえない。
ちびトラがドロの中をダンプを助けにやってきて力いっぱい押したけれど、今度は自分も動けなくなっちゃった。
「助けて、助けて!」とちびトラが叫ぶと、その声をききつけて動物たちが駆けつけてきて、みんなでちびトラを力一杯押した。でも重すぎてちっとも動かない。
その時、やってきたのが緑のカエル。「みんなで力を合わせて押すんだよ」というと「いーち、にーの、さん!」と合図した。
するとついにトラックたちが動いた。
「ありがとう。お前は俺を助けてくれた。やつらはお前を助けてくれた。世の中友達同士の助け合いでできているんだな。気づかせてくれてありがとうよ」とダンプはいった。
帰りはちびトラにみんな飛び乗って、ブッブー ブッブー ブッブー。
☆色鮮やかな「ちびトラ」と動物たちの描いてある表紙が、何となく騒々しいアニメっぽく見え、そして帯を見ると華々しく「アメリカで大人気のシリーズ、日本初上陸!」とか「米アマゾン児童書「フレンドシップ部門」で不動の第一位!」とか「これでもか!」というように文字が踊っていて、何となく気後れしてしばらく放っておいたのですが、この「何となく」の本を再度手にとって読んでみたら、あらまぁ素敵な本じゃないかと見直した次第です。
平面的なアニメっぽく見えた絵は、ひとつひとつに表情があり、色彩が美しく、ユーモラスで、木にも草にも人格さえ感じてしまいます。画面構成も個性的、スピード感さえも伝わってくる画力に圧倒されます。躍動的な絵はきっとこどもたちの心をつかむことでしょう。それに物語の展開がうまくフィットしていて一体化しています。
絵を描いたマックエルマリーさんも文を書いたシャートルさんも本当に楽しんでこの絵本を作ったように感じます。
物語りそのものはそんなに斬新な運びではありませんが、よく読んでみるとことばのひとつひとつに意味があっておもしろい。
ぬかるみに沈んだダンプが「ウォーン」と怯えた声で叫んだけれど、「そのこえはだれにもきこえなかった。」という一節。挨拶も交わさないで「俺様が一番。どけ!」と生きて来たダンプの声は誰にも届かない。
また、ちびトラの声をききつけて大急ぎでやってきた動物たちがそれぞれ力いっぱい押すけれど、トラックたちは動かない。そこにやってきたカエルが「いいかい、みんな。ちからをあわせておすんだよ。いーち、にーのさん!」という下り。
みんながひとつの気持ちになって一緒に力を合わせる、ということ。
そして最後にダンプがちびトラにいうことば。「よのなかともだちどうしのたすけあいでできているんだな。きづかせてくれてありがとうよ」。この「きづかせてくれてありがとうよ」が泣けます。
教条主義的に意味をみつけなくてもいいように思いますが、この訳者。中川さんは、保育経験をもっている方。やっぱり何かを感じてしまいます。
多分、この訳は子どもの呼吸にフィットしたことばを紡ぎ出した中川さんのオリジナルの部分が多いのではないかと思います。そして、子どもたちに何かを伝えたいという思いが伝わってくるように思うのですが、いかがでしょう。