うさこちゃんとたれみみくん


ディック・ブルーナーぶん・え
松岡亨子やく
福音館書店

 

うさこちゃんのクラスに「だーん」という新しい男の子が入ってきました。

だーん の耳はみんなと違って片方だけ垂れていました。そこでみんなは「たれみみくん」とよびました。

席はうさこちゃんの隣です。だーん はとても楽しい子でした。

ある日、うさこちゃんは学校からの帰り道「みんながたれみみくんていうのいやじゃない?」ときいてみました。だーん は「うん いやだよ。でも僕 もうなれているから。それにみんなが僕のことをもっとよく知ったら変わるんじゃないかな」といいました。

うさこちゃんはその晩一生懸命考えました。

そして次の朝、いつもより早く学校に行くとクラスのみんなにいいました。

「これからはだーんのことをたれみみくんてよばないようにしようよ」といいました。

そこに だーん がやってきました。するとみんなが「おはよう、だーん」といったのです。「ああ いってよかった」ってうさこちゃんはうれしくなりました。

 

☆作者のデック・ブルーナーはたくさんのうさこちゃんの絵本を描いていますが、この「うさこちゃんとたれみみくん」は2006年に書かれ、日本では2008年に発刊されています。今年は最初の「ちいさなうさこちゃん」から60年目を迎えたということであちこちでイベントなどが催されるようです。長い長いシリーズ絵本です。同時にこの間にうさこちゃんも成長・深化しているように思います。

うさこちゃんの絵本は、小さいうさこちゃんの日常的でごく身近なおはなしをシンプルな絵、美しい色使いで表現した優しい絵本で、小さい人たちにもとても人気があります。デザイナーとしてのディック・ブルーナーの傑作だと思います。絵がシンプルで表情もあまり変化がないように見えますが、温かみを感じさせるのは、輪郭を描くこと一つにしても 細い筆を何回も慎重に重ねていく手作業の巧みさや、やさしい彼のまなざしと感情の移入が全体を包んでいるからでしょう。

先に「ごく日常の」といいましたが、その出来事のなかには、子どもの初めての体験や感情の動きなどの他、おばあちゃんの死や、今回のたれみみくんとの出来事など、複雑で深い示唆に富んだものも数多くあります。

「うさこちゃんとたれみみくん」では「たれみみくん」と呼ばれた友達が、そのことを表面は平気な様子をしていてもその心のなかでは決して喜んではいないのだということに気づいたうさこちゃんが、その思いをみんなに伝えようとする、そしてそれがみんなに伝わるという物語です。

このようなことは現代の私たちの間にもごく日常的に聞いたり体験したりする出来事です。そしてそのことが大きな悲劇や問題につながっていくこともあります。

そんななかでこの絵本は、「善に向かう」・「平和を創り出す」ことはどういうことかを提示しているように思えます。

うさこちゃんの洞察力と考察、実践が鍵となるのですが、それを支えたのは、うさこちゃんの中に育くまれてきたやさしさと、人に対する信頼だったように思います。

また、それと平行して だーん が「みんなが僕のことをもっとよく知ったらわかるんじゃないかな」といった言葉は、さらにそのことを教化して伝わってきます。

みんながもっと分かり合えたら、近づいて信じ合ったら、問題の多くは解決していい循環になっていくのではないか、ディック・ブールーナーのそんなメッセージがきこえてくるように思います。

2020年06月29日