トヤのひっこし


イチンノロブ・ガンバートル 文
バーサンスレン・ボロルマー 絵
津田 紀子訳
福音館書店

 

モンゴルの草原。春の終わりにトヤの家族はもっと水も草もあるところに引っ越しをすることになりました。

らくだの背中にたたんだゲルや机、椅子、食べもの、全部載せて出発です。

草原を歌を歌い、知り合いの人に挨拶しながら進んでいきます。

草原をみんなで歌を歌いながら進み、夜になると、草原で休みます。遠くでオオカミの吠える声が聞こえます。一緒に旅をしてきたヒツジやヤギが食べられたら大変。おとうさんと犬のバサルが番をします。

朝がきて、暑くて乾いた大地のゴビ砂漠に入りました。暑くてトヤはぐったりしてしまいました。ようやくゴビ砂漠を越えると、今度は、強い雨と嵐になりました。動物の群がバラバラにならないようにトヤも必死にくい止めます。

継ぎはゴツゴツした高い山にさしかかりました。ふうふういいながら山をのぼります。

下りになると「もうすぐだぞ!」とおとうさんが大きな声でいいました。

トヤも動物たちもみんなみんな駆け出しました。

あおあおとした草がいっぱいはえている草原に出ました。

そして新しく建てたゲルにともだちを招いてみんなでおとうさんのやさしい馬頭琴を聴きながら、お茶を飲みました。草原の夏の生活が始まります。

 

☆モンゴルの草原に広がる壮大な物語です。草原の民の家族が、新天地を求めてみんなで引っ越しをします。みんなでというのは家族だけでなくヒツジやヤギやラクダなどの家畜に、ゲルという家まで何から何までのことです。家畜においしい草を食べさせるための引っ越しです。

途中、オオカミなどが出る怖いところで寝たり、砂漠の暑さにぐったりしたり、酷い嵐にあったり、高い山を上り下りしなかえればならない引っ越しは、幼いトヤにとってはとてもきびしいものだと思います。

でもお父さんに守られ、家族で力を合わせ、また優しい仲間に支えられて、ようやく新しい草原の大地に着き、またみんなでそれまでと同じように生活を始めます。

このような生活は一見現代社会から取り残されたような感覚をもつかもしれませんが、私はこの絵本を読みながらなんと豊かで自由な生活だろうと憧れさえ抱きました。

経済優先の社会にはない、不必要なものを削ぎ落とした人としての豊かさをもつうらやましい価値観で生きている人たちだと思いました。

家族のあり方、自然との共生、仲間との結束や人を思いやるやさしさ、それらがすべて生活や生きることに直結していて、そこに崇高なものをも感じます。

モンゴルの草原の雄大さ、また生活の有様、など美しい色と細かい描写で絵巻物のように描かれた1ページ1ページが不思議な生活感をもって伝わって来る絵本です。

2020年06月30日