メリーさんのひつじ


ウィル・モーゼス作  こうのす ゆきこ訳
福音館書店

 

昔、ある村にメリーという動物の大好きな女の子がいました。

馬や牛や豚もメリーが大好き。メリーが会いに行くとみんな大喜びです。

なかでも一番うれしそうなのは羊でした。

ある朝、メリーが羊小屋に行くと、夜のうちに2匹の赤ちゃん羊が生まれていました。

でも、1匹の赤ちゃんはとても小さくてすっかり弱っています。

メリーは子羊を抱っこして家に連れて帰りました。そしてハーブのお茶とあたたかいミルクをやって抱きしめながら暖炉の前で一晩を過ごしました。

すると、次の朝、子羊は細い脚でしっかりと立ったのです。

それからは、どこに行くにも、いつでも、羊はメリーと一緒。

メリーが学校に行くと、子羊もあとを着いてきて一緒に教室で過ごしました。

あるとき、参観に来たラウラ・ストーンという人がこの光景が余程おもしろかったようで、メリーに1枚の紙に書かれた詩を手渡してくれました。

それが今ではたくさんの人たちが口ずさんでいる「メリーさんのひつじ」の歌になりました。

 

☆2014年11月に発行された新刊本です。

今から200年ほど前のアメリカの小さな村で本当にあった出来事をモーゼスさんが絵本にしました。子どもの頃から「メリーさんのひつじ」の歌を無意識のうちによく歌ってきたモーゼスさんが、大人になったある日、この歌が本当にいた女の子と子羊をもとにして詩が書かれ、歌になっていったというルーツを知り驚きと感動のなかで作った絵本だということです。その驚きと感動の思いがスピード感と迫力、そしてやさしさを包括して絵本の隅々に表れているような気がします。

例えば、メリーや子羊の動きや表情はもとより、ここに登場する人や動物、植物などみんな躍動しているように見えますし、また色使いも実に美しくまたリアルです。

200年前の良き時代のアメリカの物語を生でぐんぐんと伝えてくれる技量はさすがです。そして、モーゼスさん自身がその古き良き時代の空気をなつかしみ、喜んでいる姿、またその「メリーさんのひつじ」の歌を口ずさんでいた頃の幼き日の自分への賛歌を読み取りました。

私たちにもお馴染みの「メリーさんとひつじ」の曲がこんな時代のこんな物語の中で生み出されたということを知りその時代に思いを馳せると共に、これからこの歌を歌う時にはこの絵本の1枚1枚の美しい絵画が脳裏に浮かぶことだろうと思います。

2020年07月01日