パンプキン・ムーンシャイン


ターシャ・テューダー
ないとうりえこ やく

メディアファクトリー

 

シルヴィー・アンはコネティカットのおばあちゃまのいえにいました。

そのひは「ハロウィーンのひ」なのでした。

そこで 「かぼちゃちょうちんをつくるのよ」 とボンネットをかぶって はたけでいちばんりっぱに まるまるとふとったかぼちゃを さがしにいきました。

 

はたけはいえからとおくはなれた おかのうえにありました。

いぬのウィギーをおともに つれていきました。

おかのみちはのぼりざかです。

まるできかんしゃのように はっ、はっ、はっ、 シルヴィーもウィギーも あらいいきづかいに なりました。

 

さて、おかのうえのはたけについた シルヴィー・アンは しほうをみまわしました。

このはたけで いちばんりっぱにまるまるとふとったかぼちゃをさがしたいのです。

あっ、 ずっとむこう、かりとったとうもろこしのあいだにみごとなかぼちゃが みえました。

 

りっぱにまるまるとふとったかぼちゃはおもくてもちあがりません。

シルヴィー・アンはかぼちゃを ころがしていくことにしました。

ふゆのひにゆきのたまをころがして ゆきだるまをつくるあのようりょうです。

 

シルヴィーとウィギーと まるまるとふとったかぼちゃは おかのはしまできました。

あとはくだりみちです。

めのしたにどうぶつのうじょうをみおろすところです。

このときかぼちゃが いきなりはしりだしました。

 

いしもやぶもとびこえて ぼん!ぼん!ぼ、ぼーん!

はずみをつけ、ますますはやくかぼちゃはころがっていきます。

そのあとをひっしにおいかける、シルヴィーとウィギーでした。

 

りっぱにまるまるとふとったかぼちゃはやぎをおどろかせ、

 

にわとりをおびえさせ、

 

そこのけそこのけと のうじょうのまんなかをいきおいよくとおって、がちょうのふうふを 「ガア」 とおこらせ、

 

そのあとがまたいちだいじ。

バケツにしろペンキをなみなみといれたヘメルスカンプさんにたいあたりして、

 

それでもまだ まるまるとふとったかぼちゃはとまらずにおうちのよこかべに どーん、ずしん。

ようやくとまったのです。

 

シルヴィー・アンは おぎょうぎのよいこでしたから ヘメルスカンプさんがたちあがるのをてつだってから かぼちゃのあとをおいました。

やぎやとりたちにも 「ごめんなさーい」 「ごめんなさいね」 とあやまりましたとも。

 

シルヴィー・アンはおうちにはいっておじいちゃまにかぼちゃのことを はなしました。

 

おじいちゃまはそとにでてくると、にげてにげまくったかぼちゃの あたまのさきをほうちょうで すぱっ。

シルヴィー・アンがかぼちゃのなかのたねやすじをきれいにぬきとると、おじいちゃまが ふたつのめと、まんなかにはなと、さいごに、まがったはをむきだしてわらうくちを、つけてくれました。

 

そのころにはひがくれかかり、ろうそくをともしてなかにいれるとそれはそれはこわく、おそろしい、かぼちゃちょうちんができあがりました。

これでこそ、かぼちゃちょうちんです。

 

シルヴィーとおじいちゃまは かぼちゃちょうちんを もんのはしらにのせて やぶのうしろにかくれました。

みちをやってくるにんげんやいきものが ぎょっ とおどろくようすを やぶのかげからながめて たのしんだのです。

 

シルヴィー・アンは かぼちゃのたねをとっておきました。

はるがきてたねをまきました。

やがてつるがでてはたけいっぱいに ずんずんのびてみをたくさんつけました。

かぼちゃはゆめみているようです。

おおきくそだってパンプキンパイや かぼちゃちょうちんになるひを。

シルヴィー・アンのような よいこたちをよろこばせるひを。

 

おはなしおわり。

 

☆1800年代の自給自足の古き良きアメリカの生活を愛し、自身の生活も絵本も古きアメリカを貫いた作家、ターシャ・テューダーさんの処女作となった絵本です。

この絵本は1938年に発刊されました。主人公のシルヴィーが畑で大きなかぼちゃを探し、そのかぼちゃが転がって農場のみんなを驚かし、そしておじいちゃまにパンプキンムーンシャイン(ジャックオーランタンの方が有名な名前ですね)を作ってもらって楽しむ、というたわいもないお話ですが、その中に農場に暮らす女の子の小さな小さなお祭りの素朴な非日常の楽しさが垣間見ることができます。

日本でもここしばらくの間にハロウィーンのお祭りもメジャーになり、子どもたちが楽しみにするイベントの一つになっているようですね。仮装をし、町を練り歩き、お菓子をもらって…と商店などが中心になって楽しいお祭りにしているところもあります。仮装をした姿でお菓子をくれないといたずらするぞと言って回ったり、絵本の中のシルヴィーとおじいちゃまがしたように、ちょっとしたイタズラ心が持って楽しむこのお祭りと、このジャックオーランタンがどこかユーモラスな形をしているように見えることも関係ありそうですね。

この作品は処女作ということでまだ荒さも感じられますが、ターシャ・テューダーさんの描く絵本には人間と自然とがまだ共存して生活している頃の素朴な暖かさがとても感じられて読んでホッとします。ターシャ・テューダーさんは2008年に亡くなるまで他にもたくさんの絵本を描いていますし、そのライフスタイルが共感を得て様々に紹介されているのでご存じの方も多いでしょう。

町を練り歩くイメージのハロウィーンだけでなく、素朴な楽しみを家族で共有するハロウィーンの世界もまた、この絵本で感じてほしいと思います。

2020年07月06日