なんでもできる!?


五味太郎

偕成社

 

2017年6月出版の五味太郎さんの新しい絵本です。

今回の登場人物は男の子(?)と馬です。男の子が馬の頭に乗りたいというと馬は何とかやってみようと頭に乗せます。そして「もっと高くなれるかな」「走れるかな」「わにのように這えるかな」「泳げるかな」「飛べるかな」という次々に出てくる男の子の無理難題に馬は「無理無理」といいつつ「やってみるか」とやってみると「やればできる!」。最後には「人に馬が乗る」という超難題に挑戦。男の子の上に馬が乗って「やるきになればなんでもできる!」というお話の展開です。

さすがに五味太郎さん。読者が期待していることをちゃんと熟知していて、今回も子どもたちが目を輝かせて引き込まれる五味太郎ワールドを創り上げてくれました。

五味さんの奇想天外の発想とそれを納得させてしまう絵と文の力はすごいなと思います。

また、最後にどんでん返しがおきるのも痛快です。子どもは予想もしない話の展開にどんどん引き付けられて「あぁおもしろった」で終わりますが、その後、誰に読んでもらわなくても、自分で字が読めなくても、本棚から選び取っては何回でもページをめくって自分でその世界を反芻しながら楽しんでいます。絵本のおもしろさと子どもの世界をにくいほどわかっている作家さんだと思います。

五味さんは「母の友」767号(福音館)の対談のなかで「『起承転結がある物語があってそこに挿絵がついて』という従来の絵本の構造ではない、何か新しい構造を作れないかなっていつも考えているんだ」「絵本て、言葉と絵だけで一つの世界を作るわけじゃない?ちっちゃな世界ではあるにせよ、お、この世界はここで今まったくあたらしく生まれた世界だぞってのが好きだね。これは発明だっていう本を作りたいわけ」と語っておられますが、五味さんの絵本にはどれもこの精神が感じられます。ひきつけられる美しい色彩の絵もさることながら、この新しい発明のような世界に子どもは夢中になるのではないかと思います。

冒頭で「男の子」のあとに(?)をつけたのは、この男の子が本当は五味さんそのものではないかと思ったからです。子どもの心や興味、好奇心をいつまでも失わない人でなければこんな絵本は描けないはず。この絵本のなかで五味さんは自分自身がああでもないこうでもないと空想を広げて楽しんで遊んでいるような気がするのです。

2020年05月18日