てつたくんのじどうしゃ

 

わたなべ しげお作
ほりうち せいいち絵

福音館書店

 

てつたくんが歩いていたら、くるまが4つ、次々にころころ転がって来て、てつたくんの見ている前でパタンパタンところんで止まりました。

てつたくんが「くるまが4つもあるからどうしようかな」と思っていると、そこに2本の棒がとんとんと歩いてきて、2つずつ、くるまの心棒になってころころと転がり出しました。

もうころびません。

てつたくんもどんどんついていきます。

すると大きな板が木によりかかっていました。

板が「ぼくもつれていっておくれよ」というのでくるまと心棒は板をのせてころころ走っていきますと、道にすわってだっだっだっとうなっているえんじんに会いました。

今度はえんじんを板の上にのせて、坂道をどんどん登って下っていきました。

でも池の前でくるまは向きを変えられずに止まってしまいました。

そこでてつたくんははんどるを持ってきてくるまに飛び乗ると、向きを変えて、「しゅっぱーつ」。

てつたくんがだっだっだっって上手に運転して坂を登り、下って来るとおかあさんに会いました。

そして「おかあさんものせてよ」といったので一緒に乗せてあげました。

 

☆この絵本は2014年「こどものとも」年中向き9月号として配本されたものです。

渡辺茂男さんと堀内誠一さんが1969年に発表された作品の再版です。

堀内誠一さんは「たろうとひっこし」のたろうシリーズの絵や「ぐるんぱのようちえん」などの作者としてお馴染みの方です。また渡辺茂男さんの「しょうぼうじどうしゃじぷた」や訳書の「エルマーのぼうけん」などはベストロングセラーとして親しまれています。

この「てつたくんのじどうしゃ」の明るくて楽しげな表紙は、グラフィックデザイナーとしての堀内さんのモダンなセンスがいかんなく発揮され、大人も子どもも「早く開いてよんでみたい!」という思いにさせられます。

「たろうシリーズ」にも通じる親しさを感じさせます。

表紙を開くと、何てやさしい、おだやかな文!

子どもの心に染み込んでいくような語り口、安心してきいていられる物語りの展開。

粗筋を前段に書きましたが、書いてみればただそれだけの物語なのに、一言一句が愛に満ちていて、物語の設定や展開を超えて読み手をぐんぐんひきつけてやみません。

そして、裏表紙の絵。小さくてつたくんとおかあさんが寄り添って車に乗っている後ろ姿が描かれているのも憎らしいくらい素敵。心地よい余韻がそこで更に深まりを増します。

この作品ははじめ童話として「母の友」に掲載されその後「こどものとも」向けに書き直されたものです。その時の言葉として渡辺さんは「苦心の末、すっきりまとめて編集部に提出しました。(多分、前段の粗筋調だったかもしれません)ところがです。担当の方が、いいにくそうに「まとまりすぎて、つまらなくなった」とおっしゃるのです。がっくりしたわたしはもとのストーリーをもう一度読んでみました。すると、どうしたことでしょう。書き直したものより生き生きしているではありませんか!長男の鉄太が2歳にもみたなかった時に、無心に遊ぶすがたを見ながら、わたしは、語りかけるように、愛情をこめてこの童話を書いたときのことを、あざやかに思い出しました」と語っておられます。

この文章には、父親としての限りない思いが込められていたのですね。

又その文を「堀内誠一さんが明るい明るい絵本にしてくださったのですが、そのころ堀内さんの長女の花子ちゃんが、うちの長男と同じ幼い年頃だったはずです。考えてみれば、幸せな父親二人の合作だったのかもしれません。」(絵本のたのしみより)と書いています。お二人ともすでに鬼籍に入られた方です。でもお二人の絵本は、今でもそしてこれからも色褪せる事なく、すべての子どもたちに形や言葉を超えたあたたかさや愛やユーモアといった見えない大きなものを包み込んで伝え続けてくれるものと思います。

 

幸せな父親二人の合作・・・何て素敵なことばであり、素敵な絵本なのでしょう。

2020年07月11日