おっとあぶないかわのなか

 

文 きむらゆういち
絵 みやにしたつや

福音館書店

 

大きな川の真ん中にある大きな島に、「草原で一番偉いのだ」といっているライオンの親子と「森で一番偉いんだど」といっているゴリラの親子が釣りに来てばったりはちあわせ。

「釣りだって俺が一番だ」と思っているライオンとゴリラは、お互いに相手に魚が釣れるたびおもしろくない。

だんだん島の端と端に遠く離れて釣り競争。

夢中になって釣っているうちに、雨が降り始めた。

そのうちどしゃぶりになり、気が付くと川の水がふえて島が小さくなっている。

しかたなくライオンとゴリラは島の真ん中にあとづさりすることになった。

川の流れが速くなり、島は更に小さくなった。2組の親子はどんどん近づくしかない。

小さくなった島の真ん中で顔を合わせたゴリラとライオンが「俺の方が偉いんだぞ!」と睨み合ったその時、いきなり足元の土が崩れて、4匹の親子はみんなで抱きしめ合って体を支え合うしかなくなった。

そこへ大きな木がゴーっと流れてきて4匹に向かって突進してきた。

もうだめだと思った瞬間、ライオンはその木を受け止め、ゴリラはみんなを木のところに投げ飛ばした。

気が付くと4匹を乗せた大きな木は広い川をゆっくりと流れていた。

木につかまり、流されながらライオンとゴリラは互いに功績を認め合った。

そして「じゃまたな」とライオンは草原に、ゴリラは森にと帰っていった。

「一番偉いのは俺だけど、あいつもすごいな」といいながら。

 

☆「ゆらゆらばしのうえで」や「どうするどうするあなのなか」を書いた木村裕一さんの最新作です。天敵の間柄でいつもは命のやりとりをしている動物たちが、一緒に同じ危機に遭遇した時、その垣根を超えて、一体になって危機に立ち向かっていくという、スリリングな、そして最後には友情や思いやりのあたたかさを感じさせてくれる絵本を書いて来られた木村さん。今回も同じセオリーでユーモアたっぷりに描いておられます。

森で一番偉いと豪語するゴリラのとうちゃん。草原で一番偉いと威張るライオンのパパ。

それぞれこどもの前では尚更偉そうにしています。自分から相手に挨拶するなんてことプライドが許しません。相手に魚が釣れれば「俺だって」とムキになります。「自分が一番偉いんだ」と思い込んでいるものにとっては「負けるものか」という競争心は、焦りややっかみや嫉妬や見下しや疎外心といった気持ちを厄介なほど刺激します。そういう闘争心ムンムンの人たち、あるいは国々が今、たくさん見えますよね。

しかし生死というような大きな視点から見ればそんなものは小さい小さい。

木村さんの絵本はそんな生死が迫る切羽詰まった状況下で、人は(動物は)どのように生きられるのか、生きようとするのか、またどのように生きてほしいかを描いているように思います。ライオンとゴリラは死の危機に直面して呉越同舟の仲になり、互いに持っている力を出し合って難を逃れます。

逆にいうと、みんなが持っているそれぞれに与えられている力を互いに出し合い、認め合って一緒に立ち向かう時に、はじめて危機を超えることができる、といえるようにも思います。

そしてその危機をみんなで超えた時、それまで「自分が一番だ」と思い込み、他を認めようとしない時には決して見えなかったものが見えて来るのではないでしょうか。

それは「一人ではない」という喜び、「共にいる」というあたたかさ、「共に創り出せる」という自信などでしょう。

そしてそれは「幸せ」や「感謝」や「平和」をもたらしてくれます。

私たちは、同じ地球丸という船に乗って凪も嵐も共に受け止めていく人類としてひとつになって平和を創り出していきたいものだと思います。みんなで幸福に生きていきたいと思うのです。

今、世界のあちこちで戦火があがり、たくさんの人々の涙が流れています。

あってはならない人類の危機です。地球丸の人々が心をひとつにして立ち向かわなければならない時だと思うのです。8月、平和を希求する月です。

2020年07月13日