かまきりのちょん


得田 之久 さく・え

福音館書店

 

朝、ツユクサの間から出て来たのは、かまきりのちょん。

ツリガネニンジンの下で足や触覚をなめて朝のお化粧。

その時テントウムシが目の前を横切った。後をつけて行くとテントウムシは突然羽を広げてとんでった。ちょんは ぽかん。

次に出会ったのは、糸をたらしたミノムシ。ちょんが飛び着いたら、ミノムシは大きく揺れてちょんは地面にまっさかさま。

そこはアリの群の真ん中。逃げろ逃げろ。

ようやく木の枝まで逃げられた。あぁおなかがぺこぺこ。

その時、すごい獲物が見えた。ちょんはカマを振り落としその獲物を捕らえた。

それは大きなトノサマバッタ。

おなかがいっぱいになったちょんは、のっそりと歩きだす。

そしてツルリンドウの間に入って行った。きっと眠くなったんだ。

 

☆今、子どもたちの生活のなかに、自然の植物や生き物がめっきり減りました。

環境が変化して、生活の中に自然がなくなった、ということもありますが、子どもの生活や遊びの中で直接的に自然に関わる実体験が少なくなっているようにも思います。

本や映像の中での知識はあって「虫博士」などと呼ばれる子どももいますが、そんな子でも実際に木の幹を這っているケムシを見て叫び声をあげたり、あっちこっち掘ってはダンゴムシを見つけても自分の手でさわることができなかったり。

年長児でもホタルの姿を想像することができなかったり、コアラやアライグマは知っていてもイモリなんてとんでもとんでも。

周りに自然があったとしても自分の生活の中で身近な虫や生き物との遭遇の体験がとても少なくなっているように思いとても残念です。

今回の「かまきりのちょん」は今から47年も前に「こどものとも」として発行された絵本です。でも時の隔たりは全く感じさせません。今日、そこで実際におこっているかのような臨場感があります。

しかし47年前、この絵本が初めて子どもたちの手に渡った頃は今よりカマキリは子どもたちのぐっと身近な生き物でした。作者はそのカマキリのほんの短い1日の1コマを美しい絵とシンプルなことばで写生のように描いています。観察絵本のような切り取りではありますが、これらの描写の中に、子どもが生き物の実態を驚きや衝撃、安堵、また知らなかったことを知る喜びを実感しながら入り込んでいかれる壮大なドラマ「ものがたり」として展開されています。

もともと自然界そのものが、私たちの知を超えたところにある壮大なドラマなのでしょう。ちなみに、先日子どもたちが森の中でカマキリの卵をいくつか見つけました。お部屋で飼いたい、孵化を見たいといいましたが、それだけは勘弁して欲しいと(だってひとつの卵から200匹くらいのミニカマキリがうじょうじょ出て来て、部屋のいたるところに入り込むんですよ)頼んで、森のなかでその誕生の時に出会うのを待っています。

子どもたちがすぐ身近にいる生き物との出会いを通して、自然の不思議さや命の営み、生きることの尊さを生活の中で感じていかれるような幼児期であって欲しいと願っています。

2020年07月14日