さんまいのおふだ
新潟の昔話
水沢 謙一 再話
梶山 俊夫 画
福音館書店
むかし、やまのてらに、おしょうさんとこぞうがすんでいたって。
てんきのいいひに、こぞうが「おしょうさん、やまへはなきりにいってくるでの」といってでかけた。
こぞうは、はなをさがしさがし、だんだんやまおくへいった。
ひとえだきっちゃぶっかつね、
ふたえだきっちゃぶっかつね、
みえだめにひがくれたって、
くらくなって、てらへかえるみちもわからなくなった。
「さあこまった」とおもうていたら、やまのむこうに、ちいさなうちがあって、ピカンピカンとあかりがみえた。
そこへいったら、しらがのおばばがひとりいて、いろりにひをたいていた。
「こんやひとばんとめてもらえるかの」というたら、おばばはジロリとみて、「おうとまれとまれ」というてとめてくれ、こぞうは、おばばのそばでねたって。
よなかに、こぞうがめをさましたら、おばばが、こぞうのあたまをペランペランとなめたり、おしりをザランザランとなでたりして、「こぞうはうまそうだな」なんていうていたって。
そのときザーッとあめがふってきて、とおりすぎていった。
あまだれが「テンテンてらのこぞう、かおみろ、かおみろ」というたって。
おばばをみると、くちはみみまでさけたおっかなげなおにばさだった。
「おばば、おれべんじょへいきたい」「おれのてのなかへしれ」「もったいない、おばばのてのなかになんかしれない、もうたれそうだ」「それならいってこい」とおばばは、こぞうのこしになわをつけて、べんじょへやったって。
こぞうがにげようとすると、おばばがこしのなわをキツンとひっぱって、「こぞうこぞういいか」という。
「まだまあだ、ピーピーのさかり」とへんじした。
また、「こぞうこぞういいか」「まだまあだ、ピーピーのさかり」とてもにげることができない。
すると、べんじょのかみさまがあらわれて、「このさんまいのふだをもって、はやくにげていけ」としろいふだとあおいふだとあかいふだをくれたって。
こぞうは、こしのなわをべんじょのはしらにしばって、そのふだをもって、そとへにげていった。
…
☆各地に語り継がれている有名な昔話ですね。いろいろなパターンがあるようですが、基本的にはこぞうさんが山奥で鬼婆につかまり、3枚のお札の助けを借りて逃げ帰るというお話です。この絵本は「新潟の昔話」の再話です。必ず共通しているのは小僧が逃げ出すきっかけに必ず便所に立ち寄るということ。
どうやらこれは仏教以前から日本にあった厠神信仰が影響しているのではないかと考えられるようです。また、紙が身代わりになったり鬼婆の邪魔をしてくれるのは呪術的な考えの影響からでしょうか。登場人物はお寺の和尚さんや小僧なのですが仏教的なことを感じさせる部分は意外とありません。民俗学的見地からこのお話を読み解くのも面白そうです。
この絵本は、方言や繰り返される擬音・擬態語(ピカンピカン、テンテンなど)でテンポ良く読める文章と、ユーモラスでありつつ非常に質の高い絵が、読む人を絵本の中に引きこんでいきます。
上記の引用紹介では冒頭からこぞうが便所から逃げる場面までですが、この続きも本当におもしろいです。ぜひこの絵本を手に取られて、どきどきはらはらしながら、こぞうと一緒に鬼婆から逃げてください。