ふしぎなよる


原作 セルマ・ラーゲルレーヴ
再話 女子パウロ会
絵  こいずみ るみこ
女子パウロ会

 

真っ暗な晩、今生まれたばかりの赤ちゃんと母親を温めるため一人の男の人が「火をください」と家々を尋ね回っていました。

でもどこの家も起きて来ません。

遠くの野原に羊と羊飼いが眠っていました。ちらちらと火が見えます。

男の人が走っていくと、大きな3匹の番犬が吠え飛びかかろうとしましたがそのまま吠えもしないし飛びかかってもきません。

男の人が羊たちの背中の上を歩いて火のそばに近付くと、羊飼いは持っていた杖をその男の人めがけて投げ付けました。でも杖は横にそれてしまいました。

男の人は羊飼いに火を分けて欲しいと頼みました。

羊飼いがしぶしぶ承知すると、男の人は手で火をつかむと、自分のマントに包みました。

やけどもしないし、マントもこげないのを見て不思議に思った羊飼いはその男の人のあとについていきました。

すると冷たい洞穴で震えている赤ちゃんとお母さんを見つけました。

それを見た時、羊飼いはとてもやさしい気持ちになってふわふわの羊の毛皮を差し出しました。生まれて初めての気持ちです。

ふと気が付くと、まわりには不思議な光りと歌声に満たされていました。

羊飼いは誰よりも早くイエス様のお誕生を知り、その場に出会ったのです。

 

☆不思議なそして幻想的なクリスマスのおはなしです。

人々の集落から離れて一人、羊と生活している偏屈な羊飼いのおじいさんに起こった不思議な出来事。それは聖書のなかで、野原で野宿している羊飼いに天使が現れ、救い主イエスさまのお誕生を告げ知らせた。そして羊飼いたちは貧しい家畜小屋に導かれ生まれたばかりのイエスさまに出会った」という記事と照合します。

そして、赤ちゃんイエスさまに出会った羊飼いは、今までの生き方を変換するような恵みをいただくのです。

このお話は、おばあちゃんが孫に聴かせるおはなしとして展開しています。

原作は、19から20世紀に生き、母国の自然と生活を児童に伝える「ニルスの冒険」を書いたスエーデンのセルマ・ラーゲルレーヴです。女性で初めてノーベル文学賞を受賞した方です。

この話のなかで彼女はクリスマスは人間の人知や営みを超えた神様の偉大な業であり、そのこと自体が奇跡なのだということを言っているような気がします。

クリスマス物語には不思議な出来事や、奇跡がよく描かれていますが、その多くがイエスさまの誕生の光に照らされることによって絶望から希望に、冷たさからあたたかさに、憎しみから愛に、自己中心から他者と共に、断絶から融和に、無関心から思いやりにと生き方を変えられ復活していく奇跡です。

2000年以上前から人々はこの奇跡の希望を待ち望み、暗闇から光りある生活へと誘われて喜びのクリスマスをお祝いしてきました。

そしてクリスマスは、今年も一人ひとりの心のなかにその奇跡と復活を起こしてくれます。そのことを信じ、静かに、そして喜びのなかでイエスさまのお誕生を待ち望みたいと思います。

2020年07月28日