ママ、ママ、おなかがいたいよ


レミイ・シャーリップ/バートン・サプリー作
レミイ・シャーリップ 絵
つぼい いくみ 訳
福音館書店

 

青いマーブリングの模様に浮かんだ細かい切り絵のような白い馬車が猛スピードで駆けている表紙を見るなり「何だろう」と思います。

よく見ると馬車にはおかあさんとおなかが風船のように大きく膨らんだ子どもが乗っています。

子どもの顔だけが緑色、ただ事ではありません。

めくっていくと、やっぱりただ事ではない物語が展開していきます。

「ママ、ママ、おなかがいたいよ。」そこで大急ぎお医者さんがやってきて「これは大変、入院だ」。

そして大きなおなかを調べてみると、次から次へと出てくるわ。

りんごにボール、ケーキまるごと、やまもりスパゲッティ、つながったソーセージ。お皿までも。それに魚にポットのままのお茶、カップもクッキーも、まだまだつながって出て来ます。最後に自転車もですって。

あぁやっとすっきりした。というお話です。 

 

影絵のようなモノトーンの画面に子どものおなかから出て来たものだけが色をつけて描かれている個性的な絵、余分なものは何もないのにすべてを読み解くことができます。大人も子どもも画面にぐいぐいとひきつけられます。

そして、おなかからとんでもないものが次々出てくるという一種グロテスクな話がその絵のモダンさによって現実離れしたしゃれた感覚で楽しむことができます。

見るたび読むたびに細かい描写から新しい発見があるのも魅力のひとつ。子どもは、じっと絵を見ながら、それらの発見を楽しみます。見えないものが次々と姿を見せる手品のような世界が大好きな子どもたちにとってこの絵本の世界は魅力に満ちています。

この絵本は日本で福音館から発行されてから36年。今でも幼稚園では相変わらずの人気絵本として世代を超えて好んで読み継がれています。

最初にニューヨークで発行されたのが1966年といいますから、もう50年も前に創られた絵本ですが、少しも古い感じはありません。

作家たちの子どもの心に寄り添う思いと芸術的センスがぎっしり詰まった絵本だからこそと思います。

名作とはこういう作品をいうのでしょう。

2020年05月19日